第百十二話 赤い果実
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「怒らなくてもいいじゃない。記憶のことだけれど」
「記憶・・・・・・」
己の中に芽生えたエンジェルへの疑念をここでは見せなかった。
「そう。記憶だけれど」
「何のことだ?」
「貴方今度の依頼は記憶に関することね」
疑念を出すまいとするロジャーに対してまた言ってきた。
「そうね。間違いないわね」
「何度も言うが仕事のことについて言うつもりはない」
このことは何としても引くつもりはなかった。
「これはネゴシエイターとしての最低の責務の」
「わかっているわ。けれど記憶といえばこの街の記憶は」
「・・・・・・・・・」
「随分と短いわね」
実に思わせぶりな言葉であった。
「そう。四十年程度しかないわね」
「一体何が言いたいのだ?」
何故彼女が知っているのかと思いながらもやはりそれも隠して問うた。
「君は。昼食にアルコールを出した覚えはないが」
「安心して。酔ってはいないわ」
エンジェルはそれは否定した。
「ただ。聞いた話よ」
「うむ」
「私の聞いた話だけれど」
隠す気もないカモフラージュであったがロジャーはあえてそれに乗り話を聞いた。
「シュバルツは過去を知っているようね」
「この前私はまたあの男と闘った」
こう答えるだけだった。
「ジェイソン=ベックともだが」
「私は一人知り合いがいるの」
エンジェルはさらに言うのだった。
「彼女から聞いたのだけれど」
「どういった話をだ?」
「外から来た人間がいるわね」
「ふむ」
内心でそれはロンド=ベルのことだと確信していた。
「そして彼等は今この街の謎を解こうとしている」
「そうなのか」
「ええ。彼等は既に何かを感じているわ」
このことも言うのだった。
「そう、街の何かをね」
「奇妙な話だ」
ロジャーはエンジェルの話をここまで聞き終えたうえで述べた。
「まるでこの街がイミテーションみたいな。そう」
「そう?」
「作り物であるかのような話だ」
この時の言葉は考えて出してみたものではない。ただエンジェルを煙に捲く為の目くらましの言葉であった。
「そんなことは考えたこともなかったが」
「そうなの」
「そうだ。ない」
これはあえて出した嘘であった。
「それはな」
「なかったのかしら」
しかしエンジェルの言葉はわざと出した懐疑的なものであった。
「本当に?」
「疑うのか」
「少なくともあまり信じないわ」
このことをはっきりと告げてきた。
「私はね」8
「信じる信じないは自由だ」
「けれど。あれね」
ここでまた言ってきた。
「最近結構物騒になってきたわね」
「それは否定しない」
彼が最もよくわかっていることだった。
「ベックも脱獄したしシュバルツも生きていた」
「ダストン大佐も大忙しよ」
「大佐もか」
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