第百十一話 四十年前の記憶
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いのかな」
「私がここに!?」
「そんな気がするが」
「いえ、それはありません」
ロジャーはそれは完全に否定した。
「私はここに来たのははじめてです」
「あれ、そうだったかな」
アレックスはそれを聞いていぶかしむ顔になった。
「そんな気がするが」
「まさか。それは」
「だが。一つ言っておくが」
アレックスはあらためてロジャーに言ってきた。
「僕はその二つのことについて知らない」
「知らないのですか」
「確かにこの街は外の世界と隔絶されている」
彼もそれはよくわかっていた。
「そして四十年前の記憶がない」
「それはその通りです」
「何も知らないのだよ」
彼はさらに話す。
「僕は何も」
「そうだったのですか。それでは」
「悪いね。何も知らなくて」
アレックスはこうロジャーに告げてきた。
「それで話はこれで終わりかな」
「はい」
またアレックスの言葉に頷いた。
「それではまた」
「ではまた機会があれば」
アレックスは表面上は紳士的に彼に応じた。
「仕事を頼みたい。それでいいかな」
「はい、それでは」
「その時に」
これで話は終わった。ロジャーはアレックスに挨拶をして屋敷を後にした。そうして自分の家に愛車グリフォンで帰る。その時にまたドロシーが声をかけてきた。
「ロジャー」
「何だ?」
「あの人のことだけれど」
「どうやら本当に何も知らないな」
彼は車を運転しながら述べた。
「彼はな」
「そう、知らないの」
「知っていれば顔にどうしても出る」
ロジャーは言った。
「目に出るものだ」
「そうなの」
「そうだ。しかし無駄ではなかった」
「無駄じゃなかったの」
「どういうことだ?」
ハンドルを握りながら考えていた。
「私が。あの屋敷に前に行ったことはない」
「ロジャーはあの人とは初対面ね」
「しかも彼の父親とも面識はなかった筈だ」
「父親?」
「そう。彼には父親がいた」
彼は言う。
「ゴードン=ローズウォーター」
彼はその名を出した。
「彼の父親でパラダイム社の創設者でもある」
「その人とは会っていたの」
「しかし記憶にない」
彼は言う。
「私は知らない。いや」
「いや?」
「覚えていない」
声に怪訝なものが宿った。
「そのことは。私も四十年前のことを知らない」
「ロジャーもなのね」
「何故ロンド=ベルがここに来たのか少しだけわかってきた」
彼は今度はこのことも考えた。
「運命なのかも知れない」
「運命?」
「この街の謎を解くべきだという。私の運命かも知れない」
「じゃあロジャーはその謎を」
「解くべきなのだ。間違いなくな」
「そう。じゃあロジャーはこれから」
「とりあえずは家に戻る」
今はそうするしかなかった。
「今は
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