第六話「恋人候補は媛巫女」
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、自然と背筋が伸びる。そんな俺と向かい合った祐理は変わらぬ笑顔を張りつかせて口を開いた。
「エリカさんってどなたですか?」
「私の妻であります!」
「ああ、そうでしたね……。蒼蓮さんには妻子がいらしたんでしたね。あなたという方のいやらしい性根を失念していました」
分かる。俺には分かる。声音は優しいがこれは爆発する寸前なのだと。
「魔王の力を利用して女性を意のままにし、愛人にするだなんて恥べき行為だと思いませんか?」
「いやいや、ちょっと待て。確かに俺はいやらしいし女性関係については節操なしだが脅迫紛いで近づいたことは一度もないぞ? それに愛人云々がエリカのことを指しているならそれは違う」
「でしたら、そのエリカさんが本妻なのですか? どちらにせよ女性を囲っている時点で不誠実です」
ジトーとした目で見詰めてくる祐理。
「エリカは本妻じゃなく妾だ。それに俺が女たちに向ける愛はどれも平等だ。そこに優劣はないし、後ろめたいことなど一つもない」
一般的には妾と愛人はイコールだが、我が家――もとい、俺は違う。愛人は恋人以上嫁以下に使う言葉。つまり嫁候補を意味する。
むしろ誇りだ、と胸を張って言うが返ってきたのは絶対零度の視線だけだった。ため息とともに視線を切る祐理に少し傷つく。
「今日はもうお帰りください。私からの用はございませんので」
「えっ、祐理? ちょっ、祐理さーん!?」
障子を閉める無情な音が、すべてを物語っていた。
† † †
その後、いくら障子越に声を掛けても返事が来ないため、仕方なくその場を後した。頑固なところがある彼女は一度こうなってしまうと梃子でも動かない。こちらから身を引くしかないのだ。
――明日改めて顔を出そう。そんでもってもう一度謝ろう。赦してもらえるか分からないけど……。
すごすごと退散する自分を改めて振り返り、思わず苦笑した。
「一時期はまつろわぬ神にさえ『触らぬ海堂に祟りなし』、『死を振り撒くモノ』と言われ、『神越』の名で忌避された俺が今では一人の娘に右往左往する、か。嘗ての俺が見たらなんていうかな……」
無様の一言で終わりそうだなと結論付け、今し方踏破した長い階段を振り返る。
「……祐理と出会って、もう四年経つのか。存外時が経つのは早いものだな」
彼女――万里野祐理と出会ったのは、とある国で起きた事件の渦中だった。
カンピオーネ歴三百年少々の小僧がまつろわぬ神を招くという事件だ。その神を降臨
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