第五話「正史編纂委員会」
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る玉砂利の音はまったくしない。これだけでもかなりの実力者だと窺えた。
「……あなたは?」
「おっと、これは失敬。申し遅れましたが私、甘粕と申します。麗しき姫巫女のご尊顔を拝見できて光栄の至りですよ。以後お見知りおきを」
仰々しい言葉とともに差し出してきた名刺を受取る。そこには甘粕冬馬という名前とある組織の名が書かれていた。
「正史編纂委員会の方が、私にどのような御用件で?」
日本の呪術界を統括する組織の使者が一体なんの用なのだろうか。背広をだらしなく着崩した姿はとても委員会の人間には見えないけれど、丁重かつ慎重に対応しなければならない。
「いやー、積もる話もありますが……お邪魔させてもらえません? もう、寒くて寒くて」
――本当になんの用なのだろうか?
† † †
「いやー、助かりました。上司の令でアラスカに行っていたんですけど、帰国早々にまた指令を貰いましてね。ここ最近は寒くて缶コーヒーが手放せませんよ。不躾にもお邪魔した挙句にお茶まで頂いて、申し訳ありません」
緑茶の入った湯呑を手に朗らかに笑う甘粕さん。私は困惑しながらもそれをおくびにも出さず再度用件を窺った。
「いえね、実は我が国に未曾有の災厄となるかもしれない火種がありまして、少々手を焼いているのですよ。そこで、姫巫女のお力を貸していただきたく思いお邪魔しました」
「私などがお力になれるとは思いませんが……」
「またまた、ご謙遜を。数多くの姫巫女がこの日本にはいますが、あなたほどの霊視力に長けた方は稀です。まあ、それ以外にも二つほど理由がありますが、それは後程お話ししましょう」
甘粕さんは姿勢を正すと本題に入った。
「とある日本人の少年がいます。彼と会って、その正体を見極めて頂きたい。草薙護堂といいまして、正真正銘のカンピオーネではないかと疑惑が挙がっている人物です」
「カンピオーネ?」
思い掛けない単語に思わず目を丸くしてしまった。欧州における最大最凶の魔王の称号。神を弑逆し、そのお力を奪いし簒奪者。神話に喰らいつく者たち。
――不敵の笑みを浮かべ振るう拳は暴虐の限りを尽くし、晒す背は堅牢な城壁にも勝る。
この呼び名を耳にすると、いつも彼の姿を彷彿させる。老いた魔王の呪縛から私を救ってくれた、ただ一人の想い人……。
「あなたを選んだ一つの理由はもうお分かりですね? あなたはかつて、デヤンスタール・ヴォバンと遭遇した経験がある。実際にカンピオーネをその目にしたあなたなら草薙護堂の鑑定も
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