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失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】
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第八話「トラウマ」
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する危険性が極めて高い。それに――」
黙して俺の言葉を待つ皆の顔を一人一人眺め、言葉を続ける。
「萌香に同じ苦しみをもう一度味あわせたくはない。だから俺は、萌香の記憶はこのままにしたほうが良いと思う」
誰もが押し黙り、嫌な静寂が場を支配する。お袋と亞愛は悔しそうに、それでいて悲しそうに唇を噛み締め、刈愛と心愛は泣きそうな表情で顔を伏せた。
「……本当に、いいのね。それで」
「ああ」
お袋の確認に頷く。俺と過ごした日々を忘れてしまうのは確かに悲しいことだが、それで萌香が幸せに生活できるのなら躊躇いはない。
俺の目を真っ直ぐ見つめたお袋は意志が固いのを察すると、同じく頷いた。
「お母さま!」
「納得しろとは言わないわ。だけど、千夜の言うことも無視できないことなのよ。心愛も本当は分かるでしょう?」
「でもっ」
なおもお袋に詰め寄る心愛を俺は背後から抱きしめる。
「ありがとう、心愛。俺は大丈夫だから」
「……なんでお兄さまは、そんなに冷静なのよ……悲しくないの……?」
「俺だって悲しいさ。けれど、それで萌香が苦しまずに済むならそれでいい。何せ俺はみんなの兄だからな」
「……そんなの、おかしぃよぉ……にぃざまだって、ほんどうはがなじいのにぃ……! こんなのって、あんまりだよぉ……!」
俺の腰に抱きつき泣き出す心愛を宥め、お袋に視線を向ける。
「後で萌香の記憶を封印処置しておく。萌香の記憶が万が一にも戻らないようにな」
「……わかったわ」
「それと、俺は今日限りで屋敷を出ようと思う」
『――!』
驚愕のあまりに絶句する皆の顔を見渡し、静かに言葉を続ける。
「萌香の記憶が戻ることの危険性は先程説明した通りだ。いくら封印処置をするとはいえ、俺がこの屋敷で生活したら萌香の記憶を呼び起こしかねない。俺自身が引き金になるかもしれないんだ。なら、早いうちに屋敷を出たほうが良い」
誰もが泣きそうな顔で押し黙る。頭では理解しているが心が、というやつか。この顔を見ただけで愛されている、と実感してしまうな。
「――ごめんなさい、千夜。あなたには辛い思いをさせてばかりで……。これじゃあ、母親失格ね」
落ち込んだ様子で肩を落とすお袋の背をポンポンと叩く。
「なにを言っているんだ。記憶喪失だった俺を真っ先に受け入れてくれたのはお袋と萌香じゃないか。お袋には感謝しているよ。あんたは血の繋がった母親ではないが、それでも俺のお袋だ。それは胸を張って言える」
「……っ! ありがとう、千夜……! 本当に、ごめんなさい……ッ
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