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失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】
原作開始前
第八話「トラウマ」
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「萌香! 落ち着いて!」


 お袋の声が届いていないのか、完全に錯乱してしまっている。


 それまでずっと部屋の後ろで見ていた俺は静かに前に出た。振るわれる手足を片手でいなし、トン、と指先を萌香の額に当てる。


「あ……――」


 指先から放出した魔力で脳幹の橋にある網様体を刺激した俺は、萌香の意識を刈り取った。乱れたベッドを直し、布団を掛ける。


「千夜……」


 お袋が心配そうに俺を見つめるが、視線を合わせずに一言「出よう」とだけ口にした。





   †                   †                  †





 萌香の部屋を後にした俺たちはお袋の部屋へと向かった。全員が座ったのを確認し、早速萌香の様子について、俺なりの考えを述べる。


「あの様子から分かると思うが、萌香は心にトラウマを抱えている。恐らく、亞愛との喧嘩で俺の首が落とされるのを目撃したのが原因だろう」


俺の言葉に重々しい空気が流れる。


「どうにかなんないの……? ほら、よく漫画なんかだと、そのうちに記憶が戻ったり、何かの拍子に戻ったりすることがあるじゃない!」


 心愛の言葉に刈愛が首を横に振った。


「確かにそういった可能性もあるわ。だけど、確実に戻るという保証はどこにもないし、なによりさっきのように錯乱する可能性の方が高い。リスクが大きすぎるわ」


「じゃあどうしろって言うのよ! それじゃあいつまで経っても記憶が戻らないじゃない!」


 癇癪を起すように声を荒げる心愛に誰もが沈痛な面持ちで押し黙った。


「……俺は、無理に記憶を戻さなくてもいいと思う」


『――っ!?』


 それまで黙していた俺が口を開くと、お袋たちが一斉に驚いた顔で俺を見た。


「何を言っているの千夜!?」


「正気? 記憶が戻らなくてもいいって……」


「そうよ! お兄さまもなに言ってるの!?」


 お袋、亞愛、心愛が血相を変えて言い寄ってくる。刈愛だけは慌てずに、ただジッと俺を見つめていた。


「ああ、至って正気だし何を言っているのかも理解している。萌香が記憶喪失に――いや、記憶障害になったということは、あの子にとってそれほど衝撃的な出来事だったということだろう。人間の場合だが、こういった精神的衝撃を受けることで生じる記憶障害というのは、いわば自己防衛の結果によるものが多い。衝撃のあまりに精神が駄目になるのを防ぐため、その原因を封印しようという本能だな。これは人間の場合であってバンパイアにも適応されるかは謎だが、もし仮にそうだった場合、再び思い出させたがために今以上に状態が悪化
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