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失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】
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第八話「トラウマ」
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ましてや萌香は十歳だ。いくら『力の大妖』と言われるバンパイアとはいえ、その精神は人間となんら変わらない。泣きもすれば笑いもする。十歳という多感な時期にそのような出来事に直面すれば、今の状況も頷ける。そう考えれば、無理もない……。
――認めたくはないが、な。
心愛はまだ理解できないのか、しきりになって萌香に言い寄っていた。
「お姉さま、本当に忘れちゃったの!? お兄さまだよ! 千夜兄さまだよ!?」
「心愛も何を言っているんだ。そもそも、私たちに兄はいないだろう」
「まだそんなことを言って……! お姉さまもよくお兄さまに稽古をつけてもらったじゃない!」
眉根を寄せた萌香が心愛を心配するように見つめた。
「心愛、お前本当に大丈夫か? 稽古相手はずっと姉さんたちだったろう」
「――このっ、分からず屋! その指輪だって千夜兄さまが送ったプレゼントなのに! これじゃあ、兄さまが可哀想だよぉ……」
決壊したダムのようにポロポロと大粒の涙を流す心愛。そんな心愛をお袋が優しく抱きしめた。
お袋の胸の中で声を上げて泣く心愛を見て、萌香が困惑した顔で指輪を取り出す。
「一体どうしたというんだ、心愛もお袋も可笑しいぞ! 第一、この指輪は亞愛姉さんが――」
ずっと首に掛けていたのか、俺の渡した『月の指輪』を取り出した萌香がマジマジと指輪を見つめた。
「――いや、ちょっと待て……亞愛姉さんはあの時、深紅のドレスをくれたんだった……。え? じゃあ、この指輪は誰が……? でも、亞愛姉さんのはずじゃ――ッ!」
「萌香!?」
「萌香!」
「萌香ちゃん!?」
「お姉さま!」
急に頭を抱え蹲り始めた萌香。そんな萌香に驚いたお袋たちが駆け寄る。俺は皆の後ろで眺めていた。
「せんや、兄……さん? ころ、ころころされ……首、おち…………血が……血がぁぁぁぁあああああああああああああ――――――――――ッッ!!」
髪を振り乱し絶叫し出した萌香にお袋たちが落ち着くように声を掛ける。しかし、一向に落ち着く様子を見せない。それどころか、混乱は増々加速しているようだった。
「なんで、どうして……っ!!? なんで兄さんが血塗れなんだぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!」
「くっ……!?」
「きゃっ!」
「きゃあ!」
手足をバタつかせ、拘束を振りほどく萌香。真祖の血が覚醒しているためか、華奢な手足からは考えられない程の力だ。力負けした亞愛たちが吹き飛ばされていく。
唯一の真祖であるお袋はなんとか腕にしがみついているが、それも時間の問題だろう。
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