第三幕その十一
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第三幕その十一
「貴女の御気分のことは」
「ええ」
話しながらまたオクタヴィアンを見やる。
「この私の従弟が知っております」
「この方がですか」
「そうです。ですから私はもう」
「マリー=テレーズ」
オクタヴィアンはその彼女の名を口にした。何故か。そこにはこれまでのような深いものは消えていた。表面上の儀礼的なものになろうとしていた。そんな言葉であった。
「貴女は。そうして」
「何でもありませんわ」
口では言う。心を押し殺して。
「私が誓ったことは彼を正しい仕方で愛すること。だから彼が他の人を愛そうともその彼を愛そうと。けれどこんなに早くその時が来るとは思いませんでした」
「・・・・・・・・・」
二人は夫人のその言葉の前に沈黙してしまった。夫人の言葉はさらに続く。
「この世にはただは無しを聞いているだけでは信じられないことが多くありますわ。けれど実際にそれをその身に受けた人は信じることができるけれどどうしてだかはわからない」
それが人であるのだ。
「ここに彼がいて私がいて。そして彼女が。彼は彼女と幸せになるでしょう。幸福という言葉をよく知っている多くの人達と同じように」
「何かが来て何かが起こったのか」
オクタヴィアンも独白する。
「それでいいのか。僕は聞きたい。けれど彼女はそれを許さない」
夫人を見て呟く。
「何故こんなに震えているんだろう。何か途方もない過ちを犯してしまったのか。そして同時に僕は彼女を見詰める」
その彼女は。
「ゾフィー」
その名を口にした。
「僕は貴女を見詰める。貴女だけを。これは貴女を愛しているということなのだろうか」
「教会にいるような心の中」
そしてゾフィーも。独白していた。
「敬虔で何処か不安な心の中。不浄なものもある」
静かに揺れ動いていたのだ。
「自分の気持ちがわからない。あの方に対して跪きたくもあり怒鳴りたくもあり。どうしてこんな気持ちなのかしら」
はっきりとはわからない。しかし心はさらに揺れ動くのであった。
「私には彼女が私にあの人を与えて下さるのがわかるし彼から何かを奪うことも感じている」
相反していた。完全に。
「全てを知りたいとも思い知りたくもないとも想う。問いただしたいけれどそれを否定もしたい。暑くもなれば寒くもなってしまう」
どれもこれも反対のものだった。まるで合わせ鏡の世界の様に。何もかもが。
「けれど。ただ一つ確かなことは」
オクタヴィアンを見る。それは。
「あの方だけは。やっぱり」
「貴女だけしかいない」
ここでオクタヴィアンは。ゾフィーにまたこの言葉を告げたのだった。
「何度も申し上げます。ですから」
「夢なのでしょうか。貴方と一緒に」
「貴女だけが心に残り他のことは消え去り」
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