第三幕その九
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第三幕その九
「ウィーンには用はなかったのだな」
「さて」
夫人は彼の言葉を聞きながら。今度はヴァルツァッキやアンニーナ、それに役者や子供達に対して顔を向けるのだった。騒動の脇役達に対して。
「貴方達も。お帰りなさい」
そう言いながら懐からそっと何かを出す。それは数個の宝石であった。
「これを」
「えっ、これは」
「こんなに」
「今夜の。仮面舞踏会の出演のものです」
こう述べてその宝石達を手渡すのであった。
「ですから」
「これはお店のお勘定も入っているのですね」
「勿論」
店の主人に対しても答える。
「ですから。もうこれで静かに」
「わかりました。それでは」
「もうこれで」
彼等は去った。そしてそれを受けて男爵も。夫人に対してまずは一礼したのであった。最初と同じフランス風のあのお辞儀であった。
「奥様。それでは」
「ええ、これで」
「ウィーンとはお別れです」
「もう来られないのですか?」
「今回のことでよくわかりました」
これが男爵の出した結論であった。
「そういうことです」
「左様ですか」
「所詮わしは田舎者」
また自嘲の言葉が出た。
「そういうことです。それでは今度は」
「レルヒェナウで、ですね」
「ええ、お待ちしておりますぞ」
「わかりました。それでは」
「ささ、旦那様」
ここで。従者達が素早く彼を取り囲む。こんな時でも主のことを気遣っている。酔ってはいてもだ。
「鬘を」
「コートを」
「おお、済まんな」
彼等からそういったものを受け取って目を細める。
「探していたのだがな」
「今見つけました」
「ですからすぐに」
「うむ、済まんな」
彼等に礼を告げて身に着けて。それから後にするのだった。
とりあえず胸に想うことは見せない。貴族としての体面は保ちつつ従者達を従えて酒場を、ウィーンを後にするのであった。何も残さずに。
男爵がいなくなると。後に残ったのは。
「私は一体」
オクタヴィアンは戸惑ってその場をうろうろとしていた。どうしていいかわからなかったのだ。
「何が何だか。こんな筈では」
「こんなことがあるなんて」
そしてそれはゾフィーも同じだった。二人の若者達は夫人の周りでおろおろとしていた。ただ静かにそこに立っている夫人の周りで。
「あの人はあの方のお側にいて。私はあの人にとってはからっぽに過ぎない」
「私があの娘さんをお助けして。それがどうして」
「伯爵」
ここで夫人は。またオクタヴィアンをあえて伯爵と呼んだのであった。
「はい?」
「早くお行きなさい」
「行くとは」
「そうです」
表情はにこやかな笑みのままで。静かに告げるのであった。
「行くのです。貴方の心に従って」
「私の心に」
「そ
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