第一幕その三
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第一幕その三
「そっちは駄目よ」
「どうしてですか!?」
「控え室なのよ」
そうなのだった。
「召使達が大勢いるから。こっちへ」
今度は反対側に案内する。しかし。
「駄目、音が近付いて来るわ」
「今度は何処から」
「もう衣装部屋に入ったのね」
音が近くなったのでそれがわかるのだ。
「隠れるしかないわ。だから」
そう言ってベッドの陰に案内する。
「この中に隠れて。いいわね」
「はい。じゃあ」
「まずは危機をやり過ごさないと」
今度はこうオクタヴィアンに告げた。
「何もならない。だからこそ」
「まずは危機をやり過ごすのですね」
「そうよ」
また彼に対して告げた。
「私はナポリの将軍ではないから立つべき場所に立っているわ」
なおナポリは後にハプスブルク家の得意とする婚姻政策によりハプスブルク家のものとなる。マリア=テレジアが娘を嫁がせたのである。彼女はこの時オーストリアの偉大なる国母であったのだ。
「召使達が気を回してくれればいいけれど」
そうも願う。
「あらっ」
だがここで元帥夫人はふと気付くのだった。
「あの人ではないわ」
「そうなのですか?」
「ええ、男爵様と言っているから」
明るい顔になってきた。その顔でオクタヴィアンに対して述べる。
「違うわ。よかったわ」
「そうですか。しかし男爵というと」
「あの馬鹿でかい声は」
元帥夫人は衣装部屋の方から聴こえるその声にそば耳を立てて探りながら述べる。
「オックスだの」
「オックスといいますと」
「私の従兄のレルヒェナウ男爵よ。何の用かしら」
それはわかったが疑問があった。それは。
「どうしてわざわざ領地からこのウィーンまで。あっ」
「また何か」
思い出したような顔になる夫人に対して問うた。
「あれよ。ほら、一週間前のことを憶えているかしら」
「私がですか」
「そうよ、一緒に馬車に乗っていた時」
オクタヴィアンに対して話す。
「一通の手紙が届けられたわね」
「そんなこともあったでしょうか」
その辺りのオクタヴィアンの記憶は曖昧なものであった。彼はいぶかしむ顔で首を傾げている。それが何よりの証拠であった。
「そうよ。私も手紙の内容は憶えていないけれど」
「それはまた」
「一体何の用かしら」
また考える。
「まあいいわ。それはそうとして」
オクタヴィアンに顔を向けての言葉であった。
「何なの、その格好は」
「奥様」
見ればオクタヴィアンは召使の格好をしている。若い娘のメイドの格好だ。黒い服に白いエプロンと帽子のそれが実によく似合っている。少なくともそれは彼を男には見せてはいなかった。
「私はこの家に入ってまだ間がありませんので」
「ふざけないで」
メイドの礼
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