第三幕その三
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第三幕その三
「どうにもこうにも」
「心ではどんなことを望んでいても」
マリアンデルは不意に言ってきた。
「結局は全ては同じです」
「またどうして急にそんなことを」
「何でもかんでも。皆下らないものでしかないわ」
「そうともばかり限らないさ」
男爵は優しい言葉を彼女、実は彼にかけた。下心も復活させながら。顔の笑みにそれが浮かんでいる。
「いいかね」
「いえ」
しかもマリアンデルは男爵からさっと逃れてまた言葉を続ける。
「時は過ぎ去り風は吹き去る」
乙女の顔の哀しい言葉であった。
「私達だっていずれは。人は皆いずれは」
「また悲しいことを。歌のせいか」
「いいえ」
とは言ってもマリアンデルとしての哀しい言葉は続く。
「どんなに力があってもどうにもできないのです。貴方のことも私のことも」
「ワインを飲み過ぎたのかな?」
男爵は彼女、実は彼の様子を見てこう考えた。
「そういえばわしも。飲み過ぎたか」
「飲み過ぎですか」
「うむ」
マリアンデルのその問いに頷く。
「少し済まんな」
「あっ、はい」
彼はここで鬘を取った。何と彼のその頭は鬘であったのだ。というよりはこの時代の貴族は皆鬘を着けている。驚くべきというかその本当の髪型が毛髪のないものだったからだ。見事なまでにそれがなかったのだ。どうもそれをかなり気にしているようであるがここでまた言った。
「暑い」
そう言いながらハンカチでその頭を拭く。
「しかし本当に」
「何か?」
またマリアンデルの顔を見るがここでもオクタヴィアンにそっくりに見えるのだった。
「いや、何でもないが」
「左様ですか」
「しかしな」
ワインを飲みながら部屋の中を見回す。どうも気配を感じているのだ。
「おかしなものだ」
「そうでしょうか」
「何かが感じられるのだ」
「何を!?」
「むっ!?」
声が聞こえてきた。それは。
「あの人だ」
女の声であった。
「あの人は私の夫です」
「あの人!?」
男爵はそれを聞いて顔を顰めさせた。同時に青くもさせている。
「誰がだ」
「まさか幽霊が!?」
「いや、違う」
マリアンデルのその言葉を恐怖と共に否定する。
「これは。違う。有り得ない」
「ですが今のは」
「あそこです」
何とアンニーナが変装して出て来た。店の給仕達に止められているがそれでも部屋にやって来たのであった。ずかずかとした調子で。
「あの人が私の夫です」
「!?誰だ」
(いよいよか)
男爵は慌ててアンニーナが変装した女に顔を向けるがマリアンデル、実はオクタヴィアンはここでにんまりと笑う。そうした差が見事なまでに出ていた。しかし男爵は気付いていない。
「あの人を訴えます」
「わしをか!?」
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