第三幕その二
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第三幕その二
「男爵様」
「おお、遂に来たか」
そのマリアンデルの顔を見て満面の笑顔になる。酒でもう真っ赤だがそれが余計にいい。
「では。まずは」
二つある木製の杯の両方にワインを注ぐ。そのうちの一つをマリアンデルに手渡そうとするが彼女は俯いてその申し出を断るのであった。
「私はお酒は」
「駄目なのか」
「すいません」
「それならいい。酒は楽しく飲むものだ」
これは男爵の哲学だ。
「無理強いはせぬさ。ところで」
「はい」
「まあ楽しく話でもしよう」
陽気に笑いながら彼女に言う。さりげなくにじり寄ってもいる。
「ではな」
「お隣の部屋は」
「気にすることはない」
何があるのかさえも言いはしない。
「何ということはないさ。休む場所だ」
「そうなのですか」
「そしてここは騒ぐ場所」
言いながらテーブルの上のお菓子を手に取って食べる。チョコレートクッキーである。特別にここに取り寄せたものだ。親父に金を弾んで。
「さあ。では楽しく話をしよう」
「ですが男爵様」
しかしマリアンデルは畏まったまま男爵に対して尋ねるのであった。
「貴方様は確か花婿様では」
「おや、そうだったかな」
その質問にはあえてとぼけてみせる。目が上を向いて知らないふりだ。
「さて、どうだったかな」
「そうなのですか」
「ここではそんな世間のことは関係ないのだよ」
またマリアンデルににじり寄る。しかし彼女はコケテイッシュな動作で彼をかわす。
「おや、これは可愛い動きだ」
「そうでしょうか」
「おなごにしては。しかも」
ここでマリアンデルの顔をあまり明るくはない部屋の灯りの中で見る。見ればその顔は。
「似ているな」
「誰にでしょうか」
「まあ当然か。血縁だったか」
この前の朝の元帥夫人との話を思い出す。うろおぼえだがそれが心に引っ掛かる。そのせいでマリアンデルにこれ以上近付くことができなくなっていた。それで困っていると。
「むっ!?」
部屋の隅のカーテンが動いたのが見えた。窓は全部閉まっている。それも確かめて首を捻るのであった。
「妙だな」
「どうなさいました?」
「うむ、今カーテンがな」
そのことをマリアンデルにも言うのであった。
「動いたのだが」
「気のせいでは?」
「そうかのう。それに」
またマリアンデルの顔を見る。見れば見る程似ているように思えるのだった。
「本当に気のせいかのう」
「さっきから何を」
「いや、何でもない」
ここではこれ以上言わなかった。ふと下から音楽が聴こえてきた。
「むっ」
「いい曲ですね」
「確かに」
ここではマリアンデルと男爵の考えが一致した。表向きは。男爵は心からであるが。
「しかしだ」
「はい?」
「どうした
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