第三幕その一
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がるぞ」
そう言って一人立ち上がった。
「ああ、御主等はそのままでいい」
まだ盛んに飲み食いしている自分の従者や客達にはこう告げた。
「これでな。つりはいらんぞ」
「おお、これは中々」
「太っ腹な御仁だ」
客達は男爵が袋ごと金を置いていったのを見て思わず声をあげた。
「気前のいい男爵様だ」
「俺達にまでおごってくれるなんて」
「困った時は何時でもレルヒェナウに来るがいい」
男爵は朗らかに彼等に言葉を返す。
「助けてやるし御馳走もしてやるぞ」
「それでこそ我等の領主様」
「いよっ、この色男」
「本当のことを言うな」
少なくとも半分は本気で言葉を返す。それから親父に向き直ってそっと囁くのであった。
「あの娘が来たら二階にこっそりとな」
「畏まりました」
「燈火の用意は?」
「もうできております」
こう男爵に答えた。
「葡萄酒やおつまみもまた」
「よいぞよいぞ、上出来だ」
それを聞いて満足した顔で親父のエプロンのポケットにそっとコインを入れた。
「少ないがな」
「すいません」
親父は笑顔でそのコインを受けていた。
「給仕はいらないのでしたね」
「ああ、わしがやるさ」
これを聞くのは野暮なことだったがそれでも機嫌よく言葉を受け返した。
「休んでおれ。いいな」
「はい、それでは」
「ではな。娘が来たらな」
「わかりました」
こうして男爵は二階に消える。二階は少し薄暗く燈火に照らされ一つのテーブルと二つの椅子があった。そこは一つの部屋だが二階にしてはかなり広い。しかも隣に怪しい部屋がある。男爵はその中で一人楽しげにワルツのステップを踏んでいた。そこにそのマリアンデルがやって来たのだった。
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