第一幕その二
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第一幕その二
「フリッツね」
「はい」
声がまた返って来る。
「チョコレートを持って来ました」
「そう、入って」
「わかりました」
「けれど少し待って」
だがここでそのフリッツを制止する。それからオクタヴィアンに顔を向けて言うのだった。
「隠れて」
「隠れるのですか」
「剣も持ってね。ベッドの上に置いたままにしないでね」
「わかりました」
「女の寝室に置きっぱなしにするものではなくてよ」
大人の女の柔らかな忠告であった。
「わかったわね」
「はい」
オクタヴィアンはそれに応えながら部屋のカーテンの中に隠れる。元帥夫人はそれを見届けてからあらためてフリッツに声をかけるのだった。
「入って」
「はい。それでは」
それに応えると扉が開いた。そうして黄色い派手な服を着た小さな黒人の男の子が入って来たのであった。その手にチョコレートが入れられた椀を持って。
「ココアですのでこれにしました」
「そう、有り難う」
フリッツのその言葉を受けて微笑む。
「ああ、そうそう」
ここでまた言うのだった。
「置いたらそれで下がっていいわよ。ご苦労様」
「わかりました」
チョコレートを置いて部屋を後にする。それを見届けてからベッドを出てカーテンの向こうに隠れているオクタヴィアンに声をかけるのだった。
「もういいわよ」
「そうなのですか」
「ええ、出て」
また彼に声をかける。
「一緒に朝御飯を食べましょう」
「はい、それでは」
二人はカーテンの側で並びそこからテーブルのところに来た。そうしてそこに二人並んで座りそれから仲睦まじい様子でココアとコーヒーを楽しみだした。その中でまたオクタヴィアンが元帥夫人をうっとりと見ながら言うのだった。
「小鹿よ」
「カンカン」
二人はうっとりとしてこう呼び合う。オクタヴィアンはその中でまた言う。
「元帥は今はクロアチアです」
出陣ではなく軍事視察だ。元帥ともなれば多忙を極めるものなのだ。
「そこで熊や山猫を狩っているのかも。しかし僕はここで小鹿を」
「だから主人のことは言わないで」
それは拒むのだった。
「昨日夢に見たのだから」
「昨夜ですか?」
「そう、昨日」
その美麗な顔に憂いを漂わせて答える。
「夢は自分の意志で創り出せるものではないのだから」
「そうだったのですか」
「ええ。うちにいたわ」
こう告げる。
「馬や人達の騒がしい声がして。けれどそれで目が覚めて」
「嫌な夢ですね」
「夢は嫌なものであることの方が多いわ」
これもまた彼女にとってはそうなのであった。
「どうしてもね」
「遠くクロアチアにおられる筈なのに」
「人の行き来は早いもの」
こう呟く。
「けれどさっきのベルは」
「それ
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