第一幕その十
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第一幕その十
「本場からわざわざ来たのですね」
「はい、ミラノから」
「ほう、それはまた」
ミラノと聞いてさらにその目を輝かせた。ミラノは当時オーストリア領でありこの時代にマリア=テレジアが歌劇場を造っている。これがあのスカラ座である。
そのミラノから来た歌手が一礼する。そうしてゆっくりと歌いだした。
「固く武装せる胸もて我は愛に逆らえリ」
まずはこう歌いだす。
「されど二つの美しき目を見るとき我は忽ちのうちに打ち負かされリ」
愛の前に破れたのである。
「ああ、氷の心も炎の矢に遭わば何の抗いを為さん」
「愛は尊いもの」
「その通りです」
男爵は拍手をしながら夫人に述べる。それと共に夫人も応えその間に書記が彼のところに来た。すると彼はすぐにその書記に囁くのであった。
「それで話は」
「何でしょうか」
「支度金の贈りは私はしたが」
「ええ」
「こう言っては何だがあちらからはあるのかな」
「さて、それは」
書記はそれには首を傾げる。
「どうなものでしょうか」
「持参金より前にあれだ。ガウナースドルフの城と領地だが」
「それは無理では?」
「そうかな」
「おっと、男爵」
書記にとって都合のいいことに笛吹きが序奏をまた鳴らす。歌手と共にいる者のうちの一人だ。他にはバイオリンもいる。中々凝っている。
「また歌が」
「むっ、そうか」
「では話はまた後で」
「いやいや、それでもだな」
「歌の時は歌を聴くものですぞ」
にこやかに笑って男爵をかわす書記であった。
「それではそういうことで」
「仕方ないな。それでは」
「なれど我が苦しみは貴く我が傷は甘し」
愛の苦しみと傷であった。
「されば苦痛は我が満足にして平癒はむしろ虐待だ。氷の心もまた」
「話は後にしてだ」
男爵は呟きながら考える。実際のところ歌はあまり聴いてはいない。
「どうしたものかな、これから」
歌は終わった。すると夫人はすぐに執事を下がらせる。男爵はそれを見てまた呼び止めようとするが夫人がまた言うのだった。
「彼も忙しいですので」
「そうですか」
「はい、また後で」
そう言って止める。
「それにしても」
そして顔を歌手達に向けた。笛吹きとバイオリン奏者にもまた。
「よい出来でした。有り難う」
「いえ。こちらこそ」
「それでは」
執事に顔を向けて金を渡させる。彼等はそれを受け取ってまた夫人に対して一礼するのであった。その間にあのヴァルツァッキともう一人何か小柄で色の黒い女が来た。
「さっきの」
「ヴァルツァッキです」
「アンニーナです」
女も名乗ってきた。
「男爵様、以後お見知りおきを」
「うむ。宜しくな」
「実はですね」
「よいお話が」
すぐに彼に対して囁い
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