第三部第三章 獅子身中の虫その三
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ギリスには女王が出てきた。十人程だろうか。しかしかっての勢いは戻らなかった。エウロパの一国として存在するだけである。それでもエウロパでの地位はかなり高いのであるが。
さて日本の女帝であるが十九世紀後半から二十一世紀前半にかけて皇室典範で皇位継承は男子のみに限るとあった。だがそれは時代の流れと共に変わった。というよりは元に戻っただけであったが。
世論は女帝を容認した。そして国会の決議もあっさりと通った。反対派は不思議な程少なかった。前例が既に十代八人もおられまた男女同権の意見にもあっていたからである。
それから女帝が何人も誕生された。宮内庁、後に宮内省となったこの頭の硬い役所もそれまでの騒ぎは何処へ行ったのやらこれまで通り儀礼を行なった。
「それは行ってみたらわかることよ」
伊藤は微笑んで彼に言った。
「何かご存知ですね」
彼は伊藤のその微笑を見て本能的に悟った。
「ええ。ただしそれは行ってからのお楽しみよ」
「そうですか」
どうやら大統領の方には話が既についていたらしい。彼はすぐに地球を発ち日本へ向かった。いや、この場合は戻ったといった方がよいのかも知れない。
日本の首都は京と名付けられていた。天皇の座す都として存在している。政治の中心は議会のある八幡、経済の中心は美原星系にある。この京は国家元首の鎮座する、そういった意味での首都であった。いや帝都と言うべきか。
不思議な風景であった。近代的なビルが立ち並ぶがそれと共に古風な、日本の平安時代や江戸時代を思わせる建物も並んでいる。これは主に儀式の際に用いられる建物だ。
「何かここへ来ると懐かしい気持ちになるな」
八条は空港を降り立って車に向かいながら思った。そして車の中からその古風な建物を見ていた。
「いつも思うけれどこうした建物を見ると心が和むね」
彼は運転手に対して言った。
「はい、何といっても我々の古来の建築様式ですから」
彼は運転しながら答えた。彼の肌はやや黒い。アフリカ系の血が入っているのだろう。だがその心は日本にあるようだ。
やがて皇居に着いた。所謂宮殿であるが他の国々の君主達の宮殿とは違う。それ程大きくはなく木造である。木は檜を使用しているようだ。そしてその装飾も極めて質素である。
「これが世界のエンペラーの家だとはな」
八条は皇居を見て心の中で呟いた。皇帝の宮殿と言うにはあまりにも小さい。別荘といってもまだ足りない程だ。装飾もなく中にいる侍従達の服装もかっての平安期の服を復活させており極めて慎ましやかである。これがこの皇室の伝統であった。
本当に歴史と伝統があるならば無闇に飾る必要はない、代々の天皇はその生活をもって無言でその意思表示をしてきた。かって明治という日本の危急存亡の時に若くして即位しその象徴であり続けた明治天皇は
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