第三部第三章 獅子身中の虫その一
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獅子身中の虫
この時サラーフは混迷した状況にあった。オムダーマンの侵攻を受けて焦土戦術をとってはいるものの彼等がムスタファ星系に足掛かりを築いた為それが期待するような効果をあらわしていないのである。
だが彼等はオムダーマン軍と正面から戦おうとはしなかった。敵将アッディーンの将としての資質はよく知られており彼が率いるオムダーマン軍の強さも身に滲みていたからである。やはりカッサラとブーシルでのことが彼等の脳裏には強くあった。
従って彼等は焦土戦術を執り続けた。それと同時に戦力を回復させることに努めていた。要するに持久戦に持ち込んでいたのである。戦略としては間違ってはいない。
だがマスコミにそれがわかる筈もなかった。特にサラーフのマスコミは目先のことしか考えられず常に世論をミスリードしてきた。そして今もそうであった。
『何故逃げるのか』
『弱腰がもたらしたこの惨状』
『すぐにオムダーマンを叩け』
『侵略者を追放せよ』
こうした扇情的な報道が連日繰り返された。彼等はことあるごとに今の政府及び軍の首脳の弱腰を批判しナベツーラ派を持ち上げた。
これに気をよくしたのがナベツーラであった。彼はマスコミの支持を背景に口をきわめて今の政府を批判した。それを批判と呼んでいいのだろうか。最早それは罵倒そのものであったがマスコミはそれを『見事な反論』『与党を論破』などと賛美した。
そして軍ではミツヤーン派が台頭していた。彼等もまたナベツーラ派であり今の軍首脳部の戦略を批判していた。そしてさかんに強硬策をぶちまけていた。
「どうだ、軍の方は」
ナベツーラは自らの率いる政党のビルの党首の部屋において取り巻き連中と話していた。
葉巻を吸っている。かなり高価なものなのだろう。その香りは普通のものより遥かに強い。
その目は鋭い。いや鋭いというよりは禍々しい嫌な光を放っている。マフィアの首領の目に近いだろうか。そしてブルドッグをさらに醜くしたような顔をしている。髪は黒々としているが何を考えているのかアフロにしている。当然全く似合ってはいない。
この醜悪な老人がナベツーラである。マスコミの寵児にして野党の党首である。
鋭い弁舌と確かな識見で知られている。その判断は果断にして素早く今やサラーフの次の指導者である。
というのがマスコミの評価である。だがそれは幻想に過ぎない。
実際のこの男には識見なぞ存在しない。政治家になったのは家の豊かな資金とコネの為であり政治家になってからは権力闘争にのみ執着していた。彼の政治とは権力に他ならなかった。
そしてその過程で数多くの政敵を葬ってきた。彼と党の幹部を争った議員が不審な死を遂げたこともある。そして袖の下にも極めて貪欲である。だがマスコミはそうしたこと
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