第三部第二章 緒戦その三
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その私生活はごく平凡なものであった。
「せめて食事は普通のものを頼んだが」
そこで呼び鈴が鳴った。
「閣下、私です」
ハルダルトの声であった。
「入っていいぞ」
彼は言った。暫くして護衛の兵士がドアを開けハルダルトがボーイを連れて入ってきた。
「ご苦労、では食事にするとしよう」
「はい」
彼はフォークとナイフを手にとった。サハラの食事はエウロパと同じくフォークやナイフ、スプーンを使って食べる。連合のように箸も使ったりマウリアのように手で食べたりはしない。だがその作法はエウロパのものとはかなり違っている。
エウロパは料理を一つずつ出すがサハラでは一度に出す。そして食べる順番も自由である。
「そこのボーイにチップを渡してくれ」
彼は食事前にハルダルトに対して言った。
「わかりました」
彼は兵士達に命じてボーイにチップを手渡した。普通のより多めである。
「有り難うございます」
そのボーイは笑顔で言った。彼にしても思ったより多かったらしい。
彼は上機嫌でその場をあとにした。アッディーンは食事に向かった。
料理もまたごくありふれたものであった。小麦のポタージュと香辛料をきかした若鶏の焼いたもの、野菜の炒めたものにチーズ、そしてパンとワインであった。サハラでは酒には五月蝿くない。イスラムがその信仰であるがこの時代は酒は飲み過ぎなくてはいいという教えになっている。
意外にもイスラムにおいては酒もよく飲まれている。時代により違うだけである。時代によって飲んでよい時とはばかれる
時がある。ムハンマドはあくまで目標であり厳格に定めるような頭の固い男ではなかった。彼は生真面目で思慮深い反面意外な程話のよくわかる男であった。
「ではいただくとしよう」
彼はまずポタージュを口にした。それから野菜を口にし鳥を食べた。そしてチーズとバターを食べ終えたあとでワインを飲んだ。こうして食事は終わった。
「閣下は食事もあまり派手なものを好まれないのですね」
「ああ。軍での生活が長いこともあるが」
実際軍の食事は普通のレストランと比べて美味しくはない。給養員の腕もあるがこれは仕方がない。アッディーンも幼年学校から軍の食事を食べているが実家での母の食事の方がずっと美味しいと思っている。
「あまり豪華な食事に興味はないな。俺は腹が満たされればそれでいい」
「そうですか」
「だがここの料理は美味いな」
どうやら味音痴というわけではないようだ。
「香辛料の使い方がいい。それにパンもワインも上等のものだな」
意外と細かい。舌は鋭いようだ。
「シェフに伝えてくれ。いい味だったと。流石にこれだけのホテルにいることはあると」
「わかりました」
ハルダルトは答えた。
「しかし注文されたメニューを聞いてシェフは驚いて
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