第二部第五章 次なる戦いへの蠢動その三
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その頃シャイターンはハルーク家の老未亡人と会っていた。
「奥様、今申し上げました様に私の心は貴女にのみ捧げられております」
シャイターンは彼女の前に跪いていた。
「その様なたわむれを・・・・・・」
その奥方は言葉ではその求愛を退けた。
見ればかなりの美貌の持ち主である。齢六十を優に越えている筈であるが三十代前半にしか見えない。皺もなく肌には艶があり髪も黒々としている。
艶かしい美貌の持ち主である。その豊満な容姿は余分な肉なぞなく髪の先から足の爪先まで妖艶な美貌を漂わせている。まるでかつてフランス王の寵妃であった伝説の美女のようであった。
「嘘だと言われるのですか、私のこの偽らぬ想いを」
シャイターンはここで顔を上げた。その黒い眼に熱意を込めさせて彼女を見上げる。
「それは・・・・・・」
彼女はそれを拒めなかった。拒むにはあまりにも美し過ぎた。
「貴女さえ手に入れることができるのならば私は他には何もいりません。アッラーに誓って」
彼女の篤い信仰心を心に入れたうえでそう言ったのだ。
「アッラーの・・・・・・」
彼女の心が揺れ動いた。そして彼はそれを見逃さなかった。
「奥様」
ここで立ち上がった。
「ここでお会いしたのも運命です。今こそその運命に従おうではありませんか」
そしてその手を握った。体温が伝わる。
「しかし・・・・・・」
まだ躊躇いがあった。
「また来ます。その時こそは私を受け入れて下さい」
彼はそう言うと踵を返した。そこでマントが風の中颯爽と翻る。
彼は自らの館に戻った。そこは漆黒と黄金で彩られた宮殿であった。新たに建築させたものである。
「如何でしたか、ハルーク家の奥様は」
館に入ると執事が尋ねてきた。古くから彼に仕えている老人である。
「悪くはないな。もう一度尋ねれば篭絡できる」
彼は妖しげな、何処か悪意を感じさせる笑みを浮かべて言った。
「それに歳を心配したがそれは要らぬ心配であった。まるで熟れた果実の様に味わいがありそうだ」
「このようにですか」
執事はここで銀の皿の上に置かれている果実の山を差し出した。
「そうだな。例えばこの無花果の様に」
彼はそう言うとその北方産の無花果を手にとった。そして口に含んだ。
「私が食するに相応しい果実だ。果実はやはり熟れたものでなければならぬ」
「青い果実は駄目でしょうか」
「それはそれで味わいがあるがな。だが熟れたものの味は一度覚えると病みつきになる」
無花果を食べ終えると執事に顔を向け言った。
「そして同時に私の立場も確固たるものにしてくれる」
「ということはやはり」
「当然だ。昔からよくあることだ」
シャイターンの笑みは何処か邪なものを秘めていた。
「ハルーク家の中で今回のことに関
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