第二部第五章 次なる戦いへの蠢動その三
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かな」
「状況は一変しますな」
「そうだ。果たしてどちらに恩を売るべきか」
彼は悪魔的な笑みをまたしても浮かべた。
「それは御主人様が最もよくおわかりだと思いますが」
「フッ、確かにな」
シャイターンはここで口の端を歪めてみせた。
「機が来れば動くとしよう。その時まで英気を養っておく」
「わかりました」
「ところで一つ聞きたいことがある」
「何でしょうか?」
「オムダーマン軍の司令官は誰なのだ」
「オムダーマンですか」
「そうだ、今回の侵攻は勢力が拮抗しているだけに将の質が戦局を大きく左右するだろうからな」
「誰だと思われますか?」
「フッ、相変わらず底意地が悪いな」
シャイターンは意地悪そうに笑った執事の顔を見て苦笑した。
「いえいえ、もう既におわかりでしょうから尋ねているのです」
「私がオムダーマンの指導者ならば」
彼はそうことわったうえで言った。
「アッディーン提督以外の者にはしないな」
「その通りです」
執事はその答えを聞き頭を垂れた。
「アッディーン提督が今回の作戦の総司令官に任命されました」
「やはりな」
彼は楽しそうに笑った。
「面白くなるな。彼の用兵は見ていて実に鮮やかだ」
「御主人様がそう言われるのは珍しいですな」
執事は彼の性格をよく知っていた。
「誤解するなよ、私は優れた者は率直に認める」
彼は席を立った。そして執事を横目で見ながら言った。
「ただ私に比肩し得る者がいないだけでな」
彼はここでベルを鳴らした。すぐに一人のメイドが入って来た。その手には銀の杯と氷の中に入れられたワインのボトルが二本入っていた。
「ご苦労」
メイドがそれを空けようとする。だがシャイターンはそれを止めた。
「待て、久し振りにそなたが空けたのを飲みたくなった」
執事に顔を向けて言った。
「いいか」
「有り難き幸せ」
彼は微笑んで頷くとワインに向かった。そして見事な手つきでコルクを空けた。
「ふむ、相変わらず見事な手並だな」
「いえ、私などはとても」
「謙遜する必要はない。美味い酒を飲ませるのも才能だ」
彼はそう言うと杯に入れられたその紅い酒を飲み干した。よく冷えた甘美な宝玉が喉を伝わり落ちる。
「美味いな。アレクサンドリアの二年ものか」
「その通りです」
アレクサンドリアはサハラ北方にあるワインの有名な産地である。今はエウロパの領土となっている。
「いずれこのアレクサンドリアのワインを好きなだけ飲みたいものだ」
その言葉の意図するところは明白であった。彼はあることを胸に秘めていた。
「エウロパの者はエウロパのワインを飲んでいればよいのだ」
「全くです」
執事はその言葉に同意した。彼もまた同じ考えであった。
「サハラのワインを飲む
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