第二部第五章 次なる戦いへの蠢動その二
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「お帰り」
見れば銀の髪を持つわりかし整った顔立ちの男性である。歳は彼女と同じ位か。
「ただいま、あなた」
彼女は部屋着に着替えていた。そして夫に対し笑顔を向けた。
彼女の夫は有名な法学者である。とある国立大学で教授を務めている。
「いつも御苦労様だね」
「いえ、そんなことはないわ」
伊藤は夫の言葉に対して微笑で返した。
「仕事疲れる程やわじゃないし」
「おやおや、もうそんなことを言える歳ではないだろう」
彼は安楽椅子を揺らしながら言った。
「それはお互い様でしょ。貴方だって昨日も徹夜で論文書いていたじゃない」
「ははは、確かにそうだがね」
彼は速筆で知られていた。一月もあれば論文の一つや二つは書いてしまう。そしてそれは国際的にかなり高い評価を受けていた。
「だが学問と政治はまた別だと思うのだが」
「あら、あおうじゃないというのは貴方が一番よく知っていることだと思うけれど」
伊藤は夫の言葉に反論した。
「それはそうだがね。優秀な経済理論や技術はどんどん利用されているのが現実だし」
「だったら認めるのね」
「だがそういうわけにもいかないだろう」
彼は顔を難しいものにした。
「あまり学者が政治に積極的に関わるというのもどうかと思うんだ。往々にして学者は象牙の塔に閉じこもっているから現実のことを知らない」
「それは人それぞれじゃないかしら」
「だが多くはそうだろう。まして我が国の歴史を見ると」
これも二十世紀後半のことであるがこの時代の日本の知識人及びマスメディアの腐敗ぶりはいまだに研究対象となっている。無能で無責任、かつ厚顔無恥な彼等は共産主義というこの時代では邪教の一種とさえみなされている思想に心酔しそれによる暴力革命を引き起こし彼等が権力を握る為に外国やテロリストと結託した。無論その様な卑しい行いが何時までもできるものではないく彼等はやがて裁かれることとなった。裁判の場や処刑場においても彼等は皆言い逃れや責任転嫁を繰り返しその醜さは人というものの醜悪な一面を知るうえで重要なテキストとさえなっている。今では日本の最も恥ずべき輩達として名を残している。
「あれは例外よ。あんな醜い連中はそうそう出ないわよ」
伊藤は顔を顰めさせた。今では彼等の卑しさは子供でも知っている。卑しい人間というのは何処までも卑劣になれるということの証明なのだから。
「確かにね。けれどああした事態を避けるようにはしなければならない」
「それならまともな学者の意見を政治家がとり入れればいいだけよ。違うかしら」
「問題は政治家にあり、か」
「そう、そしてその政治家を選ぶ国民にね」
それは真実であった。その醜い知識人やマスコミと結託した政治家が多くいたのもこの時代の日本であった。後に彼等は多くの劇や小説で卑しい
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