第二部第五章 次なる戦いへの蠢動その二
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醜悪な悪役として描かれ続けている。
「国民は自分の目を養わなくてはならない、君の著書にあったね」
「そうよ、政治家になった今では絶対に言えないことだけれど」
これは真実であろう。そうした知識人やマスコミ、政治家に踊らされないようにする為には勉強しなくてはならないのだ。だが政治家がこれを言うと問題なのも事実である。
「これは賛成するよ」
「有り難う」
彼女はそれに対しては素直に礼を言った。
「つまり学者は現実を直視して語り政治家はそれを判断しなくてはならないのか」
「国民もね」
簡単そうでかなり難しい話である。その証拠に人類は今まで何千年もこの問題を解決できていない。
「学者は現実を見なくてはいけないの」
「極端な理想主義は空虚だと」
「そうよ。理想主義もいいけれど政治は現実の世界なの。現実主義でなくては話にもならないわ」
「その現実主義だが」
彼はそこで顔を引き締めた。
「あまりにも現実とかけ離れたものである場合悲劇を生み出すわ」
それは歴史が証明していた。
「現実にそぐわない政治は悲劇しか生み出さない」
「しかしさっきから現実、現実ばかり言うが」
彼はここでまた言った。
「理想なくしては政治もないだろう。政治家は理想を求めないと駄目だ」
「それはわかってるわ」
伊藤は夫に言葉を返した。
「けれどその理想は極端なものであってはならない。そして現実にそったものでなければ」
「そういうものか」
「ええ。それは政治家になればわかるわ」
彼女は自信をもって答えた。
「政治家、か」
彼はここで言葉を濁らせた。
「私は政治家には向いていないからな。ここでこうして何かについて考える方がいい」
「あら、それは残念ね」
伊藤はそれを聞いて悪戯っぽく笑った。
「貴方はいい政治家になれるのに」
「ははは、それはよしてくれ」
彼はそれを聞いて苦笑した。
「私は単なる書生だ。一介の書生が政治に入るよりは君の弟子達がやった方がいい」
伊藤の部下達のことを言っているのだ。
「特に今中央政府にいる彼、ええと・・・・・・」
「八条君ね」
伊藤は言葉を入れた。
「そうそう、彼だ。彼の方が私なぞよりずっと政治家に向いているよ」
「謙虚なのね」
「現実を語っているのさ。君と同じようにね」
「あら、じゃあ現実主義が正しいと認めるのね」
「違うな。分をわきまえているだけだよ」
彼はそう言って笑った。そして二人はやがて休息に入った。
だがまだ休息をとらず仕事にとりかかっている者もいた。先程名前が出た八条である。
「それにしてもやるべきことが一向に減らないな」
もう真夜中になっている。だが彼はまだ書類の山に取り囲まれている。決裁を終えたその場から新しい書類がファックスで送られ
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