第一部第一章 若き将星その一
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。撤退するか」
彼は艦橋のスクリーンに映し出される双方の陣形の映像を見ながら言った。
「損害の酷い船から後退せよ。殿軍はわしが務める」
「ハッ」
参謀はその言葉に対し敬礼した。そして伝令の船が旗艦から飛び立つ。
「だが」
アジュラーンはその伝令の船達を見ながら呟いた。
「果たしてこの撤退上手くいくかな」
既に包囲されようとしている部隊もある。事は一刻を争う状況であった。
「何っ、撤退だと!?」
その話は最前線で戦う将兵達にも届いた。
「はい、損害の酷い船から随時撤退せよとのことです」
艦橋のスクリーンに映し出された伝令が各艦の艦長達に対して伝えた。
「そうか、撤退か」
戦局は彼等が最もよくわかっていた。それも致し方ないと思った。
「だがこの状況で退けと言われてもな」
彼等のすぐ前には敵の艦隊がいるのである。しかも火が点いたように攻撃を加えてきている。
「損害の軽微な艦及び無傷の艦は友軍の撤退を最後まで援護して欲しいとのことです。司令官もこちらに来られます」
「まああの親父が来るのなら頑張ってやるか」
アジュラーンはその面倒見の良い人柄から将兵達に好かれていた。また退却戦にも定評がある。
「おい、もう一踏ん張りするぞ。そしてサラーフの奴等をもう少し苦しめてやろうぜ」
その艦長は部下達の方を振り向いて言った。艦橋は歓声に包まれた。
これは巡洋艦アタチュルクにおいても同じであった。その艦の艦長は部下達に対して言った。
「よし、ここが見せ所だ。俺達の戦いをサラーフの奴等によく見せてやれ!」
彼は高く張りのある声で叫んだ。部下達がそれに応える。
黒い髪と瞳を持つ凛々しい顔立ちの若者である。高い鼻と少し切れ長の翡翠の様な瞳。唇は薄く炎の様に紅い。その顔は一目だけでは俳優か何かかと思える程整っている。黒く豊かな髪は整髪料でまとめられ光を反射し黒光りしている。顎は三角形で鋭利な印象を与える。引き締まっているが痩せ過ぎもしない顔である。それは身体全体に対しても言えた。
背は高くもなく低くもない。筋肉質であるが鞭の様に引き締まっている。そしてその仕草は機敏でまるで狼のようである。
彼の名はアクバル=アッディーン。この戦いの直前にこの艦の長に選ばれたばかりのまだ二十歳の若者である。
オムダーマンの首都アスランに生まれた。幼い頃から銃や船が好きであった。両親は普通の公務員であったが彼は軍人になることを希望した。成績が優秀であったので担任に幼年学校への受験を薦められ見事合格した。この時十二歳であった。こうして彼は軍服をはじめて着た。
幼年学校入学においては成績は常に上位であった。とりわけ歴史と艦艇運営の実践においては教授達も舌を巻く程であった。
卒業後は同期達のように士官学校には進まずすぐ
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