第百十二話 東西から見た信長その六
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「共に茶を飲みたいのう」
「そうされますか」
「茶ですか」
「うむ、美味い茶が飲めるであろうな」
こうも言うのだった。
「一度そうもしてみたいのう」
「意外ではありますな」
元春は今度は本当に想像もつかないといった顔で述べた。
「尾張の蛟龍が下戸とは」
「しかし飲めぬ者は飲めぬぞ」
「はい、そのことは承知しております」
毛利家にも飲めない者はいる。だから元春もわかっているのだ、それで父に対して頷いてこう言うのである。
「酒は体質によります故」
「その通りじゃ」
「ですな。酒は飲めぬなら飲めませぬ」
「そういうことじゃ。安芸は美味い酒を造られるが」
「それでもですな」
「飲めぬ者は飲めぬ」
またこの言葉が出る。
「それは仕方ないのじゃ」
「それが酒ですな」
「そういうことじゃ」
こう言うのだった。
「それを無理強いするのはじゃ」
「無粋ですな」
「まさに」
「無粋も好かぬ」
元就はこの考えも言う。
「粋になるつもりもないがな」
「だからこそでございますか」
「酒の無理強いもしませぬか」
「飲みたい者だけが飲めばよい」
元就は酒についてはあくまでこうした考えだった。
「飲める者がな。そしてわしは酒も茶も好きじゃ」
「ですな。しかしまだ茶は高うございます」
隆景は茶についてはいささか難しい顔で言う。
「毛利家でも茶を作るべきですが」
「この辺りは蜜柑がよく採れるがのう」
隆元は蜜柑の話をする。その他にもだった。
「それ以外の柑橘類もよく採れるが」
「兄上は蜜柑の方がよいと思われますか」
「うむ、そう思う」
実際にそうだというのだ。
「瀬戸内の辺りで蜜柑を作ってそうしてから他の場所で茶をやらぬか」
「瀬戸内以外の場所で」
「そこを探すのも悪くはないと思うが」
「ですな。しかし茶は」
「茶は売れる」
隆元は政から言った。
「我が毛利でも大々的に作るべきじゃ」
「その通りですな。では」
「わしもそれに賛成です」
元春も兄の言葉に賛同の意を述べる。
「米や麦だけを作っては何にもなりませんから」
「よし、それではじゃ」
元就も息子達の話を聞いて決断を下した。
「蜜柑も茶も相応しい場所で作るぞ」
「そして国を富ましましょう」
「我等もまた」
毛利家は政のことも決めた。山陽と山陰を手中に収めんとする彼等も信長の存在を強く感じてどう対するかを考えていた。
上杉謙信は酒を飲んでいた。謙信は陣中でも酒を欠かすことはないが戦のない夜はとりわけだ。盃を手放すことはない。
木の盃で飲むがその彼に二十五将はこう言うのだった。
「殿、深酒もですか」
「またその様な質素な盃を使われて」
「上杉家は今や二百万石に達する大大名です」
「し
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