第二十話 触手
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んの前から引き下がった……。
帝国暦 489年 5月 10日 アムリッツア エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
キア、ウルマン、ルーデルが部屋を出て行くと老人が一人入れ替わりに部屋に入って来た。ヴィルヘルム・カーン、黒姫一家でも最も喰えない老人の一人だ。老人はニヤニヤ笑っている。おいおい笑うなよ、寒気がするじゃないか。
「少しお話が有るんですが宜しいですかな」
「ええ、こちらも相談したいことがあったんです」
爺さんが真面目な顔になった。俺をじっと見ている。嘘じゃないぞ、本当に話したいことはある。
「怖いですなあ、親っさんが話があるとは。またイゼルローンのような事ですか」
「そうじゃありませんよ。ところで話とは」
「……ワーグナーの頭領ですが大変なようですな」
「大変?」
「浮気がばれたそうで」
「……なるほど」
珍しい事じゃない、あそこは一年の四分の一はそれで揉めている。
「そのうち親っさんに仲裁に入ってくれ、そんな話が来るかもしれません」
「馬鹿な事を」
「そうですなあ、親っさんに夫婦喧嘩の仲裁とか論外ですな」
そう言うとカーンがケケケッと笑った。
俺が黙っているとカーンがニヤッと笑って一つ頷いた。分かっている、ここからが本当の話だ。今までの話は他の奴に何の話をしたかと訊かれた時の言い訳用だ。
「最近、妙な連中が辺境に入り込んでいるようです」
「妙な……。薬の売人ですか」
「いや、ちょっと違うようで……」
なんだ、爺さんが困惑している。
「ルーデルは何も言いませんでしたが……」
「まだ記事には出ていませんなあ、私の方に引っかかった、そう言う事です」
「なるほど」
「はい」
ウチの防諜に引っかかった、そういう事か。黒姫一家には防諜、監察を任務とする組織が有る。もっともその組織の存在は殆どの人間が知らない。知っているのは俺、アンシュッツ、そして目の前にいる組織の責任者、ヴィルヘルム・カーン……。以前、ウチの腐ったリンゴと流れ者の繋がりを警告してきたのもこの男だ。
「どういう連中です」
俺の問いかけにカーンはちょっと首を傾げた。
「随分と横柄な連中だそうですよ、もっとも余り裕福とも思えないとか……。昔は羽振りが良かったのかもしれませんな」
「……」
「そうそう、ちょっと周囲を憚るようなところもあるようです」
「なるほど……」
「少し探ってみようかと思いますが?」
「そうですね、お願いできますか。多分裏に誰かが居ると思うのですが……」
「そうですな、私もちょっとそれが気になります。フェザーンか、オーディンか……」
「或いは別口か……」
カーンが俺をじっと見ている、一つ頷いた。今度は俺の番だ。
「爺さん、オーディンの海賊屋敷に知られる
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