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時記(Toki) ~Time of knowable illusion~
プロローグ  〜歴史誕生〜
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[9] 最初
なる者[ルファ]の声で彼等は集い、
太平を再び取り戻さんとする意思を、会議の中で交わす。
それに適しているとは言えない埃だらけの地下室で、
彼等の知恵、見聞、計略、鼓舞、愁嘆が響く。
既に暁が明けよう頃にも未だ平行線を辿る議には意気など残らず、
全員の意識を幾度も支配したであろう言葉は、
もはや朝霧に溶け込んだ。
[世界がこの空気に飲まれる前に、事態を止めなければ…]
そこに居合わせる全ての者の心境を具現した様な沈黙が漂う景、
ふと立ち上がった[ジャスティス]と呼ばれる長身の男が、
希望を賭けた案を発表した。

                     「時を戻す」

彼に注視した一同の大半は、その言葉をため息の素へと変えた。
直後、[ジャスティス]は二つ目の言葉を飛ばす。
「聖地クロックにて時を司る[十二の使徒]に接触し、力を借りるのだ」
幻導士達の一行は早急に聖地へと赴いた。

                  [森羅万象が示すは何処]

意外にも、聖地と呼ぶには若干の抵抗があるような場所だった。
[十二の使途]は、見慣れない様式の建物の中、
崩れている壁に気付かない振りをしているかの様な落ち着いた姿勢で、
近寄る者を拒んでいるとも感じられる程に重い空気を放っていた。
そんな彼らの中でも一際風格を備えた使徒に幻導士達は歩み寄り、
代表として、発案者のジャスティスが事を持ち掛ける。
しかし、この乱世の鎮撫を願う[十二の使途]でさえ、
その思慮は大きく相違していた。
「時の流れを惑わす…、
それは現状を越える程の危殆に瀕する行為と言えるでしょう」
彼らの言葉と所存に逆らってまで、
その方途を得る事に保たれた均衡は無いと思われた。
しかし、高位の使徒から次に発せられた主唱は、
その必要性を打ち消すと同時に救済の可能性を示した。
「[歴史生成の秘術]を授けましょう…、
歴史を修復するには歴史の力が必要です…」

                [斯くして逸史は二度記される]

[十二の使徒]の英知により姿を分けた世界…。
新たに紡がれた時に従い、
傷痕の所以さえ忘れ去ったその歴史に悲劇の記述はなく、
ただ一冊の書物のみが、
静かな闇の中で身に留めた夢幻の憶想に浸る。
一つは火の如く荒ぶり、一つは水の如く閑々たる静謐に漂う。
陽光と陰影…。
対を成す二つの歴史は、霞掛かった因果よって結ばれ、
沈黙のままに立ち尽くす扉は、ひたすらに時の導きを待つ…。

そして世紀を越えた今、
ある青年の好奇心が忘却の真実を呼び覚まそうとしていた。

[9] 最初


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