第八章
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チンを検索してみる。それまで、迂闊な真似をしては駄目。そのワクチンは廃棄もしくは凍結すること。『仲間はずれ』にされる可能性がある」
「…ハル、待って」
侵入経路から出て行こうとしているハルを、少し引き止めてみた。どうしても、聞いてみたいことがあったから。
「ハルは、ご主人さまのこと好き?…ご主人さまと話してると楽しかったり、褒められると嬉しかったりする?」
短い演算のあと、ハルはあっさり答えた。
「私に好き嫌い・善悪・喜怒哀楽の回路は、ほぼ無いと考えてもいい」
そして木の実が入ったフォルダを圧縮して、頭のアンテナにクリップで留めた。
「私は、その嗜好を情報収集に特化した、純然たる情報体。私の在り方が、一番理にかなっている」
ハルがゲートをくぐると、侵入経路はあとかたもなく消えてしまう。私はまた一人ぼっち。私がオフラインなことを知ったから、ハルはしばらく来ないだろうなぁ。
「…寂しいって思うの、理にかなわないのかな」
首をかしげて考えてみる。寂しいって思った瞬間、ご主人さまの網膜認識が始まると、なんか心がつながった!みたいな気がして、うきうきする。…つながらなくてやきもきする事の方が多いけど。この気持ち、何かの役に立ってるのかな。
やっぱり、理にかなわないかな。
ハルが言ってた、私の中にある大きなブラックボックスの中身って、この気持ちなのかも。嬉しくなったり、寂しくなったりする気持ち。
じゃあ、このブラックボックスにいっぱい詰まってるのは、『大好き』って気持ちなんだ。
ビアンキ、って呼びかけてくれるときの、柔らかい声が好き。誰もいない時だけ見せてくれる、繕わない笑顔はもっと好き。一番好きなのは、ディスプレイの向こうでいつも静かに光っている、誰よりも深くて黒い瞳。これはご主人さまにも内緒にしてる。あの瞳が向けられるたびに、私の演算はかき乱されて遅くなっていく。かき乱すのは『大好き』って気持ちだから。
暗がりで光るドアの方を振り向いてみた。青いドアは、また一回り大きくなってる気がする。怖いけど、絶対に開けない。
――だって私はここの番人だもん。
この気持ちは『理にかなってない』。でも、この気持ちは私を強くしてくれる…気がする。
「…絶対に、開けないんですから」
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