第八章
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「……紺野さん」
―――僕たちは、紺野さんの車の後部座席に乗っている。
あの報道があってから1時間も経たない、僅かな時間の出来事だった。
『――関係者の事情聴取により、警察は社内トラブルによる怨恨と見て捜査を進めております。そして…』
ニュースはこう続いた。この短い説明を何度もかみ締めるのに精一杯で、僕の頭はこれ以上の情報を受け付けなかった。関係者の事情聴取…社内のトラブル…
「なにしてる、出るぞ」
紺野さんの声で我に返る。振り返ると彼は、大きなトランクを抱えて立っていた。
「出るぞ。聞こえたか」
「…出る?」
「ここを出るんだ!今足止めを食ったら、取り返しがつかないことになるぞ!」
何がなんだか分からないまま、僕らは車の後部座席に、トランクと一緒に押し込まれた。
車内は、柑橘系のコロンが薄く香っていた。紺野さんは、夏みかんのアロマオイルだよ。これくらいの方が女子が車酔いしないんだ、お前も覚えておけ。と言ったきり、あまり喋らないでハンドルを握っている。
「シャワー、浴びたかった…」
柚木が僕のとなりで呟く。巨大なトランクと一緒に押し込まれたせいで、後部座席はいっぱいいっぱいだ。トランクを助手席に移そうと何度か試みたけど、天井につかえてしまい、頑として動かない。
「シャワーなら『あっち』にもあるよ。ちょっと我慢してな。…それより、君は何を持ってきているんだ」
柚木は、コーヒーミルとドリップと、珈琲豆を抱えていた。
「…『あっち』にはないんでしょ」
ほぼ起き抜けで、ねぐせを直す前に強引に連れ出され、すっかりむくれてしまっている。
「ないけどなぁ…全部持ってこなくても」
僕は内心『やった!うまい珈琲確保!』とか思っていたので会話に参加しないでいる。
…コロンの香りと珈琲豆の香りがほのかに混ざり合う車内で、僕はまださっきのニュースのことを考えていた。ほんの昨日、あんなに元気に僕らを追ってきた男が…柚木が静かに、僕の首筋に涙を落とした瞬間を思い出して、むらっと怒りが湧きあがってきた。でも次の瞬間、彼の死を告げるキャスターの声が頭をよぎって、膨らんだ怒りが萎えてしぼんだ。
――なんで、武内は殺された…?
「…おい、取ってくれ」
紺野さんの声に、思考を破られて我に返る。
「何を」
「携帯だ。取ってくれ」
助手席の前に据えられた携帯ホルダーが緑色に光ってる。身を乗り出して携帯を掴んで開くと『着信 ハル』と表示されている
「スピーカーにして、ホルダーに戻してくれ」
ホルダーに戻すと、着信画面にハルの顔が映し出された。
「どうした、ハル」紺野さんが、無表情に正面を見据えるハルに話しかけた。
「玄関の防犯カメラが、未確認の来客2名を捉えました」
ビアンキも可愛いけど、こういうアイスドール系も捨てがたい。なん
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