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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
女の敵 (前)
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驚いたような顔をした。
「なんだ、知り合いかね、リシャール大尉」
「いえ……」
 フロル・リシャールはそう言って女の顔をまじまじと見つめている。
「私はこんな不愉快な男知りません!」
 イヴリンは吐き捨てるように言った。
 だがリシャール大尉は何かを考え込むような様子になってしまった。いったい、なんなのだ?

「憲兵の少佐殿、この場はとりあえず釈放してくれないか……」
 しばし考え込んでいたフロルが口にしたのはこれだった。
「なんでよッ! あんたは婦女暴行未遂で逮捕よッ!」
「ドールトン中尉、もし私を正式に告訴したいのならば、それもいいだろう。だが、それは明日にしてくれないか」
 フロルは顔を上げて、真面目な顔でそう言った。
「何よ、あんた今日一日で私をどうこうできると思ってるの?」
「いいから、今日一日、待ってくれ。それから俺から訴えるなり殺すなりすればいい。だから、一日待ってくれ」
「本当でしょうね、逃げたりしないのね!」
「ああ、しない。少佐、あなたがこの場の証人になってください。明日、私はまたこちらに出頭します。それでいいですか」
 結果的に、今回の逮捕劇は一日の猶予を与えられることになった。



 午前11時を過ぎた頃、キャゼルヌの勤務室を叩く音がした。
 フロルである。
「おお、来たな、女の敵」
 キャゼルヌはその不機嫌そうな顔を見て、言葉を投げかけた。フロルは事実、不機嫌である。当たり前だろう、朝っぱら捕まってさっきまで喧々囂々とヒステリックなやり取りをしていたのだから。

「一応聞くが、本当にやってないんだろうな」
「……」
 フロルは不機嫌な顔と無言をもってこれに答えた。
「それならいいんだ。またおまえも面倒に巻き込まれたもんだな。おまえはなんだってそういう面倒事を引き寄せてくるんだ」
「……俺だって聞きたいね。さて、お願いがあるんですが」

 キャセルヌは書類を処理する手を止めた。フロルの声色が変わったからである。
「なんだ、逮捕が一日延びただけだろう? それでいったい何がお望みだ」
「とある事件の資料を用意して頂きたいのですが」
 それは一年前に発覚した軍需産業と軍の汚職事件であった。



 そのあと、フロルがすぐにグリーンヒル中将に連絡を取った。グリーンヒル中将は本来の史実よりも早く中将に昇進していた。エル・ファシル騒乱の事後処理の功績によってである。またこれによってフロルはグリーンヒル中将に大きな貸しを作ったのである。それはちょっとした大きさの貸しなので、一度や二度はでは清算でぬことはフロルも、そしてグリーンヒルもまた、理解していることだった。

 今回はその貸しを一つ使ったということである。
 フロルがグリーンヒル中将に願ったのは、彼が個人的に
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