女の敵 (前)
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『登山?』
「険しい山道、一歩ごとに細まる道を登り続けるか、谷底に転落するか。どちらが楽だろう?」
『暗くなってるなぁ。成功してこれだから、失敗したらどれだけ落ち込むことやら』
ラップはそう言って苦笑いをする。ヤンも、これには苦笑するしかない。自分は命を救って英雄になったんだ。そこまで悲観することもないか。
『そういえば、フロル先輩の話を聞いたか?』
「フロル先輩? ああ、今どうしてるんだ?」
『知らないのか?』
ラップはいかにも笑わずにはいられない、という顔をする。
『フロル先輩、なんと今朝、憲兵隊に逮捕されたそうだ』
「憲兵隊に!? いったい、どうしたって言うんだ?」
ヤンの脳裏を過ったのは、彼の元上官であるパストーレ少将の暗い噂だった。
だが、どうにもラップの顔を見ると違うらしい。
『ああ、参謀本部のエレベータ内で、痴漢容疑だと!』
「だぁかぁらぁ、あれは手が君のお尻に当たっただけだろう!」
「いいえ、あなたは私の尻に触るつもりだったんだわ! 若くて大尉の男なら、どんな女だって従うと思ったんでしょうけど、そうは行きません!」
「違うって言ってるだろう! 君のお尻を触りたいなら、君の彼氏になってから思う存分触るってば!」
フロルのよく回る舌も、今ばかりは空回りである。いや、むしろ状況を悪化させていると言える。
「やっぱり! 私を上官の権力で屈服させるつもりだったのね! 憲兵さん! パワーハラスメントですわ!」
「だ! か! ら! 違うって言ってるでしょう!」
「男なんて、みんな女の敵なんです!」
「そんなわけあるかッ、ボケッ!」
フロル・リシャールは心底困っていた。人事部で新たな辞令を受け取りに来たはずが、その日に乗ったエレベータの中で、痴漢呼ばわりされ、憲兵隊に逮捕されてしまったのである。
時刻は朝の9時、ちょうど朝の一番混み合う時間であり、事実、エレベータは満員であった。そんな状況でじっとしていたら、どうやら左手の甲が目の前に立っていた女性の臀部に当たっていたらしく、いきなり腕を掴まれて、痴漢扱いになったのである。
言い争っている二人を、憲兵二人が遠巻きに見ていた。手を出すものか、悩んでいたのである。当時そこにいた者の証言を聞いたところ、息が詰まるような混み具合であったらしく、恐らくその若き大尉もわざとやったのではないだろう、とのことだった。
「おい、二人の名前は控えてあるのか」
「あ、そう言えば聞いてませんでしたね……」
「おい、そこの二人」
階級が少佐の憲兵が、その二人に声をかける。
「氏名と階級を名乗ってもらおうか」
「……フロル・リシャール大尉であります」
「イヴリン・ドールトン中尉です」
そのとき、なぜか男の方が
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