エル・ファシル騒乱(後)
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「……そ、それは本当か」
その時のグリーンヒルがどのような表情であったかは、フロルのみが知るところである。だが、彼がどう思っていたかは容易く察せられる。そんな上手く話が進むわけがない、と考えながらも、もしそうなら自分の妻子は助かるのだ、という希望が彼をどうしようもなく惹き付けていたことだろう。
「まだそうはなっていないですが、まずこうなるでしょうね」
「君は……いったい……」
「勘違いしないで欲しいのです、グリーンヒル少将。私はパストーレの懐刀、と呼ばれはしても、彼のために動いているわけではありません。むしろ政治から身を離し、高潔な軍人たらんとしている少将の方が、よほどお慕いしている。私はこの情報をもってあなたを脅迫しているわけでも取引しに来ているわけでもないのです」
「では、君はいったい何をしに来たのだ」
「お願いがあってきました」
グリーンヒルは抱えていた頭を上げ、フロルに目をやった。
「家を失った難民300万がハイネセンに戻ってきます。閣下には、彼らの受け入れ先を見つけて頂きたい。私には何の力もないでしょうが、閣下ならば彼らのために力になってくれるでしょう」
「……もし、大尉の言うようにことが進めば、手配しよう」
「300万という数です。準備は早い方がいいでしょう。それに、もう一つ」
グリーンヒルはこの大尉がいったい何を求めているのか、まったくわかっていなかった。
「守備部隊の司令官、リンチ少将のことです。恐らく、彼は今回の一連の事件の総責任者としてその批難を一身で受けるでしょう。それは致し方ありますまい。ですが、彼の妻子までその矛先を向けられる謂われはありません。彼の妻子のために、閣下が手を貸して頂きたいのです。私もお手伝い致します。彼らの力になって下さい」
「わかった」
今度はグリーンヒルも、躊躇なく頷いた。
それとともに彼は心に疑念を抱いていた。この男はほんのわずかであろう情報からここまで事態を見据え、私に力を貸せと言っている。もしそう事態が運ばねば私から批難を受けることを覚悟しているのだろう。その目に迷いはなかった。にもかかわらず、彼は難民や逃げ出すという司令官の家族のためを考えている。いったい、この男はなんなのだ?
グリーンヒルが聞いている中では、あのパストーレ少将の懐刀として小賢しい真似をしている大尉と聞いていたが、その風評は間違いであったのだろうか。彼の目は下賎な欲で染まったそれではなく、私が理想とするような高潔な者の目だった。そしてこの男の言うことなら、私すら信じてしまいそうになる、この力。いつの間にか、私すらもフロル・リシャールの言う通りになるかもしれない、と信じているのだ。
「それでは私は失礼します」
フロルは部屋を出る際、綺麗に敬礼を
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