紅茶と葛藤
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、フロルも自分の家族話を披露していたので、なぜか家族自慢談義で終始したのだった。キャゼルヌに言わせれば「フロルがあんなに家族の話をしたのは初めてだった」ということで、フロルはその紅茶の味と、ミンツ大尉の話を刻み込むようにどん欲に覚えようとしていた。また、その最中、ミンツ大尉は家族三人で写った写真を見せたという。
「あいつ……、私の妻なんですが、早くに逝ってしまったもので、三人で写ってる写真は少ないのです」
その写真には、まだ2歳くらいの亜麻色の坊やと、その子をそっと抱く美しい女性、そしてミンツ大尉が写っていた。
フロルはその写真を手に取って見て、ひとしきり感想を言った後、自分の家族の写真も見せて楽しそうに語った。キャゼルヌにして見れば「俺だってあいつの家族写真なんて初めて見たよ。そもそもあいつが手帳に家族の写真を入れとくような男だと知ったことの方が、驚いたね」という話であった。
そしていい加減話も尽きたところで、お開きになったのだが、ここで一つ小さな出来事があった。ミンツ大尉の写真がどこかに行ってしまったのである。
「あれぇ、どこへ行っちまったんだ?」フロルは首を傾げる。「キャゼルヌ先輩の書類に埋まってるんじゃないですか?」
「バカ言え、そんなわけあるか」
「すみません、ミンツ大尉。探しますからちょっとお待ち下さい」
「いえ、いいですよフロルさん」ミンツ大尉はそこで少し恥ずかしそうに言った。「さっきの写真は特にお気に入りで、焼き増しが何枚も家にあるんです」
「ああ、それは」フロルは頭をかきながら困ったように笑う。
気にしないで下さい、とミンツ大尉は言った。
「キャゼルヌ先輩、今日は一杯どうです?」
ミンツ大尉が部屋を出てった後、フロルはキャゼルヌにそう聞いた。
「俺は仕事だ。午後が楽しい楽しい家族話で潰れてしまったからな。処理してから帰るよ」
「さすが独身貴族」
「俺も、なんだか家族が欲しくなった気がするがな」
「先輩にはきっといい奥さんができますよ」
「なんだ、前と言ってることが逆じゃないか?」
フロルはキャゼルヌの部屋を出て、一人宿舎に帰った。
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