疑念の夜
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を見捨てるという同盟軍の愚行を帳消しにした程度のことでしかない。だから、その、感謝されても困るというか、私がやったのは??」
「民間人に一人の犠牲も出さず、敵の包囲網を突破したのですわ、閣下。あなたがいなければ、私や母が今頃どうなっているか想像もつきません。だから、閣下がどうお思いだろうと、私はあなたに感謝しているんです」
そこに、ウエイターがシャンパンを持ってきた。二人の会話は途切れ、置かれたシャンパングラス、軽い音を立てて開けられるシャンパンボトル、そして注がれ、泡がグラスから溢れそうになる様子を、黙って見ていた。
金色の泡は、まるでフレデリカの髪のように綺麗に、輝いている。
「では、再会を祝して、もう一度乾杯しようか」
頷いたフレデリカと、ヤンのグラスが軽やかな音を立て、
蝋燭だけが灯されたテーブルの上で、二人の視線は交わった。
「ですが、どうして、こんなことになったのかしら」
ヤンは苦笑いを溢しながら、何の気なしに口を開いた。
「あるいは、フロル先輩は、中尉の過去を知っていたのかもしれませんね」
だがその言葉に、フレデリカは、一瞬言葉を失った。
父親からの、忠告を思い出したのである。
フロル・リシャールは、あのエル・ファシル脱出行の中に、なぜかおまえたちがいることを知っていたのだ、ということを。
誰にもグリーンヒルが語ったことのない、プライベートを知っていたのだ、ということを。
??だから、リシャール少将は私とヤン閣下の接触を演出した?
??だけど。
??どうして?
***
「さすがの俺でも、これは趣味が悪いと思うぜ、フロル」
バグダッシュはホテル・カプリコーン最上階の、レストランにあるバーのカウンタに一人座っていた。囁き声より小さな声量は、周りの喧噪によってかき消えていたが、咽喉《のど》に張られた超薄型声帯マイクによって拾われた音声は、電話をかけてきたフロルにしっかりと届いていた。
バグダッシュは、ヤンとフレデリカを監視していたのである。
『ほぅ、情報部の仕事で趣味の良いものがあったとは知らなかったな』
耳の穴にすっぽり入る形の小型受信機が、鮮明にフロルの言葉を届ける。軍の暗号変換器によって3重のプロテクトのかけられた特殊回線は、盗聴もハッキングも困難な代物だった。つまり、この二人の電話は、誰に聞かれる心配もなかったのである。
「皮肉を言うな、フロル。そもそも、なぜあの二人を監視する必要がある。あの二人は、なんの嫌疑もかけられていないぞ」
『だからお前を使ったんだ、バグダッシュ』
フロルの返答は、つまりこの監視が非公式な諜報活動であることを意味していた。バグダッシュは、その命令がフロル個人から発令されたものであり、フロル
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