疑念の夜
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子で電話がかかってきたのである。本来ならば、フロルとは話したいことがあったのが、それを言わせる暇のなく、一方的にお願いされたのだ。ディナーチケットがある。本来ならば、自分がカリンを連れて行くつもりだったが、仕事が入ってしまい、行けなくなってしまった。自分の代わりに、行ってくれないか。
無論、ヤンは最初断った。特段仲が悪いわけではなかったが、ヤンは年頃の女の子との付き合い方もわからなかったからである。だが、ユリアンがフライング・ボールの部活合宿で家におらず、仕事も一段落していて暇であるというヤンのプライベートなスケジュールを熟知していたフロルに、最後は説得されてしまったのである。
しかも、カリンがしっかりおめかしするのだから、ヤンもちゃんとした服装で来い、という半ば強迫じみた文言によって、ヤンはスーツの上下という彼の中ではもっともまともな盛装をしてこのレストランに来ているのである。
「私は、カリンちゃんから電話があったのですわ。リシャール少将と行く予定だったのに、少将は予定をすっぽかした。食事は美味しいそうだから、同伴する人を見つけて、食べに行きたい、と」
フレデリカはそう言いながら、また水を口に含んだ。緊張やら興奮やら、よくわからないが長年の想い人と、二人っきりでディナーという状況は、冷静沈着を旨とする彼女をして平静ではいられなくしていたのだ。さきほどから、喉が渇いて仕方がなかった。
「はぁ」
ヤンはなんとも締まりのない相づちを打ったが、どうやらこのディナーのセッティングはフロルとカリンによってなされたものらしいと、理解したのである。
「ですが、なんでかしら。二人とも、お互いの予定を勘違いしていたのかしら?」
とフレデリカは口では不思議がっていたが、これがフロルの親切の押し売りであるという可能性も、しっかりと考えていた。フレデリカにしてみれば、このディナーはとんでもなく幸せなものなのだ。心臓にかかる負担を除けば、純粋に嬉しいのである。
「そんなことはない、と思うんですが」
「可能性としては、余ったディナーチケットを押しつけられた、ということかしら」
ヤンが考える限りでは、もっともありえそうな話である。ヤンの手元に速達で届けられたチケットには、ご丁寧にも日付が固定されたものであり、今夜しか使えない類いのものだった。その日に予定があったフロルは、暇を持て余しているであろうヤンに押しつけた、という絡繰りである。
「まぁ、フロル先輩が突拍子もないことをするのは今に始まったことじゃないんですが、今回はグリーンヒル中尉にご迷惑をかけてしまって、私の先輩ながら、申し訳ないというかなんというか……」
ヤンはただ、グリーンヒル大将のご令嬢、しかも美貌の持ち主であるフレデリカに不快な思いをさせているのではないかということだ
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