疑念の夜
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ニヒト》との懇意を隠さなかったという事実なのだ。
??まさかトリューニヒト派になるだなんてことはないだろうな。
というのは三人が三人、脳裏に浮かべて口に出さなかった言葉であろう。
「俺が思い出したのは、フロル先輩の古い渾名ですよ」
ラップが考え込みながらそう言った。
「古い渾名?」
「??パストーレの懐刀、か」
キャゼルヌもまた覚えていた。
ラウロ・パストーレ中将は有名なことに、トリューニヒト派の人間である。その蜜月の関係から、パストーレは才覚の不足を補ったと言われるほどなのである。それは明らかに悪口であったが、根拠のない悪口ではなかった。
だからこそ、パストーレの懐刀という言葉は、無能者を見事に補佐する有能さを示す渾名であると同時に、一部には悪名として記憶されていたのだ。
「フロル先輩は少将に昇進して、第4艦隊の副司令になる。そういう噂が流れたはずですよね、キャゼルヌ先輩」
「俺が聞いた話も、噂の域を越えんが、恐らくその通りになるだろうな。内定という扱いだが、事実上の決定だよ」
キャゼルヌは頭をかきながらそう言った。
「またパストーレの元に戻るわけだ。そうなれば自然と、昔の渾名も再び囁かれ始まるだろう。俺は知っている。フロルはパストーレのような無能者は大嫌いだということをな。だが、アイツはそれを甘受している。こりゃあ、今度、問い詰める必要があるだろうよ」
キャゼルヌは黙り込んでしまった二人に向かって、そう言って区切りをつけた。皆が皆、一点を見つめている。
写真の中のフロルとトリューニヒト、その強く握られた手を。
***
フレデリカ・グリーンヒル中尉は、緊張していた。
それは普段着慣れないナイトドレスを着ているからかもしれない。
はたまた、ハイネセンでも有名なホテル・カプリコーン最上階のレストランに来ているからかもしれない。
恐らく一番の理由は、彼女の向かいに座っている男の存在だろうが。
そんなことを、フレデリカは瞬時に考えた。箇条書きにいて、自分が緊張している理由を分析したのである。
彼女の回転の速い頭はいつもより過剰に働いていたが、自己分析をしている時点で自分が緊張しているのは明らかだった。頭の回転も、やや空回り気味という具合である。
そう、フレデリカは緊張している。
まだ食事が始まったばかりにも関わらず、食欲がほとんどないのがその証拠だった。既にミモザのグラスを空けていたが、当然のごとく全く酔いが訪れる気配はない。
もっとも、緊張しているのはフレデリカの前に座っている男の方かもしれない。
ヤン・ウェンリー准将。
彼は困ったように頭をかきながら、なかなか目線を合わせずに口を開いては閉じ、ということを繰り返している。何かし
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