疑念の夜
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ヌ特有の、悪戯っ子のような笑みだった。
「先輩、その顔はいったいなんです……。まさか……!」
アッテンボローの驚いたような顔は、果たしてキャゼルヌの望む反応であった。
「デートだそうだ」
口笛にならない口笛をしたのは、ラップである。
「とうとう色恋沙汰でもヤンに先を越されるか。さすがに、こればかりは辛いなぁ」
「ジェシカ先輩はどうしたんです?」
アッテンボローはその性格にふさわしく、直球に尋ねたきことを尋ねたが、ラップは恥ずかしそうに笑みを溢しただけだった。言葉には出さなかったが、まんざらでもないということであろう。
「それにしても、どうしたもんかな」
キャゼルヌの言葉で、三人の意識は、再び当初の話題に戻った。
フロル・リシャールの、話だ。
三人が示し合わせたように見たのは、テーブルの上に置かれた新聞である。その第3面には、とある写真が大きく映っていた。
フロル・リシャールと、ヨブ・トリューニヒトの親しげなツーショットである。
「……フロル先輩は、こういうの嫌いだとおもったんですがね」
そう言って眉を顰めたのは、アッテンボローである。それはその場にいる3人にとって、共通の思いであったろう。彼らは多くの点で似通った感性を持っていたが、政治に対する苦手意識、アレルギー感というのはその最たるものだったろう。
ヤンの政治家嫌い、トリューニヒト嫌いは特に有名である。
しかしそれは全体からすれば少数派というべき感性だった。
トリューニヒトは自由惑星同盟において、今やもっとも有力で人気のある政治家の一人であった。彼は国防族議員のトップとして、国防委員長としてその権力を強め、国民を正義《・》の戦争へと鼓舞する優れた指導者、という評価を得ていたのである。
「あの薄気味悪い笑みを見るだけで、吐き気を催すんだがなぁ」
もっとも、そう切って捨てるのがキャゼルヌである。
「だからこそ、俺も不思議なんですよ。フロルが、あのトリューニヒトと仲良く笑みを浮かべているのが、まるで笑えない冗《・》談《・》を見ている気分なんです」
「ああ、まるで悪い冗談だ」
相づちを打ったのは、ラップである。
だが、ラップにとって唯一の救いは、写真の中のフロルが、社交用の笑みを浮かべているということだった。ラップやヤン、キャゼルヌやアッテンボローとフロルの付き合いは長い。
フロルの社交的スキルが、ヤンのそれの何倍も巧みであることを知っていたし、そのおかげでいらぬ苦労をしているということもまた、知っていた。だからこそ、それが本心からの笑みでないことに気付いていたのだが、彼らにとって問題なのは、そういう人間関係の取り扱いが上手いはずフロルが、仮にも大衆の目に触れる新聞において、彼の嫌いなはずの|政治家《トリュー
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