暁 〜小説投稿サイト〜
【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
疑念の夜
[5/13]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ヌ特有の、悪戯っ子のような笑みだった。
「先輩、その顔はいったいなんです……。まさか……!」
 アッテンボローの驚いたような顔は、果たしてキャゼルヌの望む反応であった。
「デートだそうだ」
 口笛にならない口笛をしたのは、ラップである。
「とうとう色恋沙汰でもヤンに先を越されるか。さすがに、こればかりは辛いなぁ」
「ジェシカ先輩はどうしたんです?」
 アッテンボローはその性格にふさわしく、直球に尋ねたきことを尋ねたが、ラップは恥ずかしそうに笑みを溢しただけだった。言葉には出さなかったが、まんざらでもないということであろう。

「それにしても、どうしたもんかな」
 キャゼルヌの言葉で、三人の意識は、再び当初の話題に戻った。
 フロル・リシャールの、話だ。
 三人が示し合わせたように見たのは、テーブルの上に置かれた新聞である。その第3面には、とある写真が大きく映っていた。

 フロル・リシャールと、ヨブ・トリューニヒトの親しげなツーショットである。

「……フロル先輩は、こういうの嫌いだとおもったんですがね」
 そう言って眉を顰めたのは、アッテンボローである。それはその場にいる3人にとって、共通の思いであったろう。彼らは多くの点で似通った感性を持っていたが、政治に対する苦手意識、アレルギー感というのはその最たるものだったろう。
 ヤンの政治家嫌い、トリューニヒト嫌いは特に有名である。

 しかしそれは全体からすれば少数派というべき感性だった。
 トリューニヒトは自由惑星同盟において、今やもっとも有力で人気のある政治家の一人であった。彼は国防族議員のトップとして、国防委員長としてその権力を強め、国民を()義《・》の戦争へと鼓舞する優れた指導者、という評価を得ていたのである。

「あの薄気味悪い笑みを見るだけで、吐き気を催すんだがなぁ」
 もっとも、そう切って捨てるのがキャゼルヌである。
「だからこそ、俺も不思議なんですよ。フロルが、あのトリューニヒトと仲良く笑みを浮かべているのが、まるで笑えない冗《・》談《・》を見ている気分なんです」
「ああ、まるで悪い冗談だ」
 相づちを打ったのは、ラップである。
 だが、ラップにとって唯一の救いは、写真の中のフロルが、社交用の笑みを浮かべているということだった。ラップやヤン、キャゼルヌやアッテンボローとフロルの付き合いは長い。
 フロルの社交的スキルが、ヤンのそれの何倍も巧みであることを知っていたし、そのおかげでいらぬ苦労をしているということもまた、知っていた。だからこそ、それが本心からの笑みでないことに気付いていたのだが、彼らにとって問題なのは、そういう人間関係の取り扱いが上手いはずフロルが、仮にも大衆の目に触れる新聞において、彼の嫌いなはずの|政治家《トリュー
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ