疑念の夜
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在が、どれほど彼に温かみを与えているかを感じながら。
***
ダスティ・アッテンボロー少佐は、普段は決して手に取らないであろうハイネセン・タイムズを読んでいた。ハイネセン・タイムズは、彼の父、パトリック・アッテンボローが現在勤めている新聞社の発行する新聞である。無論、ダスティが彼の父の記事を好んで読もうとしてるわけではない。彼はそもそも真面目に新聞を読む男ではないし、忌まわしい父親が書いた記事があるかもしれない新聞など、余計に買う男ではなかった。
その新聞があったのは、同盟軍病院におけるジャン・ロベール・ラップ少佐の病室である。
ラップは宇宙暦794年夏の定期検査において、慢性骨髄性白血病であることが診断され、長期入院となったいた。軍務から長期間離れるのは、792年の戦傷以来2度目であった。これは彼の武運がないという他なかったが、もし彼に運命の女神が好意的であったならば、あと2つほどは昇級していたであろうと言われるほどには、有能な男である。
もっとも、その停滞のおかげで、後輩であるアッテンボローに階級を並ばれてしまっているのだが、それを悔しがるような器の低い男ではなかった。彼は一般的な軍人、一般的な成人男性並の出世欲はあったが、それはあくまで健全なものであって、転じて人を妬み誹るような人格の持ち主ではなかったのである。
「アッテンボローは、最近フロルと会ったかい?」
新聞と睨めっこしているアッテンボローにそう問いかけたのは、病床で体を起こしているラップである。当の本人は既にその新聞を読んでいる様子であった。当然、アッテンボローが読んでいる記事が何かも、見当をつけている。
「いえ、私も転属するので、忙しくて会えていませんね。フロル先輩も、まだハイネセンに戻ってきてまだ一週間ほどでしょうし」
アッテンボローは新聞から顔を上げてそう言った。彼の顔は、困ったような表情を取ろうとして、だがしかし彼らしからぬ表情のせいで顔の筋肉が拒否反応を起こしたような、そんな顔をしていた。
それに小さく笑ったのは、もう一人の見舞い人、アレックス・キャゼルヌ少将である。
「俺も本当は、空港で出迎える予定だったんだが、ヤンに頼んでしまった。俺もしばらく会ってない。俺も一応昇進するらしいからな」
「アッテンボローも、キャゼルヌ先輩も、それだけの仕事はしてますからね。数多くの給料泥棒から比べれば、妥当な昇進だと思いますよ」
ラップは笑みを浮かべながら素直に二人の昇進を喜んだが、
「我らが給料泥棒は今日いったいどこにいるんだ、それで」
一方でここにいない彼の同期のことを、二人に訊いた。
言うまでもなく、ヤン・ウェンリーのことである。
「先約、だそうだ」
答えたのはキャゼルヌである。その顔はキャゼル
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