疑念の夜
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違う。
何度考えたが、それは明白であった。
フロルは、一度として自身がヤンやラインハルトに匹敵する天才であると考えたことはない。彼は常にその才覚で己の昇進をなし遂げようとしてきたが、それもコネや上手く立ち回った面というのもあっただろう。
彼は自分が未来を知っているというアドバンテージを持っていたが、だとしてもそれだけで同盟軍の元帥になれるわけではないのである。
無能者が、ただその知《・》識《・》のみで昇進を重ねられるほど、現実は容易ではない。
そして彼は戦いを重ねれば重ねるほど、己の力不足を自覚していた。
??自分はヤンやラインハルトに遠く及ばない。
??自分はどこまでいっても天才では、ない。
だからこそ、彼はその原作知識と、彼の経験している現実の誤差を埋めるべく、過剰なまでに情報を仕入れんとしてきた。グリーンヒル大将に接近して、情報部の一部を指揮下に入れたのも、その目的だった。
彼が動けば、彼が歴史に介入すればするほど、元の歴史からずれていくのだ。
ならばこそ、フロルは自分が及ぼした影響を、正確に理解する必要があったのだ。
更に言えば、原作知識がこの世界の将来そのものであるという確証もないのだ。
フロルはこの世界が、銀英伝の世界であることに疑いを持ってはいなかった。だがフロルという異分子《イレギュラー》が存在する時点で、本来の世界ではないのだ。大げさに言えば、フロル以外に異分子《イレギュラー》がいないとも限らない。
幸いにも、彼は未だにそのような人物を見つけていなかった。だが、その懸念は薄まることがあっても尽きることはない。
ドアをノックする音がした。
フロルが見ると、小さく開けられたドアからこちらを見つめるカリンの姿があった。目を擦りながら、眠そうに入ってくる。
「フロルさん、大丈夫? なんだか、叫んでいたけど……」
カリンは眠気のせいか、舌足らずになった口調でそう言っていた。
薄暗い夜の部屋に、月の明かりが差し込んでいた。寝室の窓から外を見れば、ハイネセンの夜空が切り取られて見ることが出来ただろう。
白を基調とした室内は、夜の色が滲み出て、深い藍色に染まっていた。
「大丈夫だよ、カリン。こちらにおいで」
フロルは辛うじて息を整えて、カリンにそう言った。
カリンは覚束ない足取りでフロルに歩み寄る。
月の光を浴びたカリンは、その幼い容貌から可憐な少女への境界にいる者特有の危うさと綺麗さを擁していた。あと数年もすれば、誰もが振り返るような美少女になるだろう。フロルは識《・》っていたが、それを心の底から信じられるようになりつつあった。
フロルは、力を入れれば折れてしまいそうな華奢な体をそっと、抱き締めた。
その腕の中にいる存
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