疑念の夜
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自分で作れるからな。だから、料理の出来ない二人にプレゼントした、というのは建前だな。盗聴器、小型カメラの類はあったか」
「ああ、たっぷり13個も設置してあったぜ。既に全部排除してある」
トリューニヒトが、設置させたものに違いなかった。
『どこのセクションだ』
「あの機具のタイプは軍部じゃないな。恐らく、司法警察の、それも公安関係だろう」
フロルが呆れたように溜息をついた。
『そういえば、法秩序委員長はトリューニヒトの子飼いだったな。ネグロポンティだったか』
「ああ、恐らくその想像で間違っていないよ。トリューニヒトの一派は、政治や司法を徐々に蝕み始めている。公的機関の私的利用だ。重大な犯罪行為だよ。軍部でも、情報部2課はベイ大佐が実質的にリーダーだ。あれは知られていないが、どうやらトリューニヒトの犬だ」
『金の流れを追ったのか。恐らく、間違っていないだろう』
「まったく、嫌になるぜ。政治家がどんな汚職に手を染めていても、軍需産業からディベートをもらっていても、俺たちはそれを告発する手段を持たないんだからな。メディアへの影響力も増しつつある現状じゃ、そのうちトリューニヒトはルドルフになるぞ。政治家を処断する権限を持つ法秩序委員長自身が、汚職政治家なんだ。なんと素晴らしきま民主国家じゃないか」
『……政治の腐敗とは政治家が賄賂を取ることじゃない、それは政治家個人の腐敗であるに過ぎぬ。政治家が賄賂を取っても、それを批判できない状態を政治の腐敗と言う、か』
「なんだ、その言葉は」
『人の台詞さ。バグダッシュ』
フロルが言った言葉は、ヤンが将来言うであろう台詞である。
あの時、ヤンはそう言って救国軍事会議の面々を戒めた。だが、現状はまさに政治の腐敗の様相を呈していた。しかも状況は、刻一刻と悪化する一方なのだ。
「フロル、おまえがどういうつもりでトリューニヒトに接近しているか知らんがな、気をつけろ。あいつはただの三流政治家じゃない。あれは??」
『知ってるさ。言われるまでもない。あれは、同盟史上最悪の煽動政治家さ。さて、もうそろそろ電話を切るよ。イヴリンを待たせている』
「ほぅ、デートか」
『知ってるくせに、惚けるのはよせ。じゃあな、監視を頼んだぞ』
そう言って、フロルからの通信は途切れた。
バグダッシュは、手で暖めていたコニャックを、一気に呷った。フロルは、こちらがフロルの動向を逐一追っていることに気付いていた。
空になったグラスを見ながら、バグダッシュは考える。
??踊らされているのは、いったい誰なのか。
??俺か。
??フロルか。
??トリューニヒト、か。
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