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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
疑念の夜
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が一切の書類に残していないであろうことも、瞬時に理解した。つまり、フロルが私的にバグダッシュを動かしたということを、である。

「……なんの意味がある。あの二人が、おまえの敵になるというのか」
『違う。あの二人が、切れすぎるからだ、バグダッシュ。おまえが見ているカップルは、同盟史上最高の頭脳を持ち合わせた人間だ。戦術的、戦略的才能に天性のものを持つヤン・ウェンリーと、同盟軍きっての記憶力と事務処理能力を持つフレデリカ・グリーンヒル。そんな二人が力を合わせたならば、相乗効果をもたらす。リン・パオ、ユースフ・トパロウルの再来だよ、あの二人は』
 その言葉はバグダッシュを納得するどころか、フロルに対する疑念を増すことになった。
「ならば同盟にとっていいことじゃないか。なぜ監視する必要がある」
『バグダッシュ、おまえには言うまでもないことだが、諜報の神髄は、情報を操作し、戦局を、人をコントロールすることだ。だから、俺はあの二人をコントロールしなきゃならない』
「なるほどな」

 バグダッシュは、誰に見せるわけでもない笑みを浮かべた。それは決して、善性のものではない。バグダッシュは、フロルのいかにも諜報部員らしい言葉に対して、笑みを浮かべたのだ。
「フロル、おまえもどうして、それらしくなってきたじゃないか」
『……躊躇を捨てることにした、ただそれだけのことだよ、バグダッシュ』
「だが、あの二人はお前に対して疑念を抱かないか」
『いや、少なくともヤンは気にしないだろうし、フレデリカも聞いてくることはない』
 フロルの言葉は、電話越しであっても何かしらの自信が滲み出るものだった。
「どうしてだ」
『フレデリカ嬢はヤンに惚れている。さっきリン・パオ、ユースフ・トパロウルという先人の例を出したがな、あの二人は男女としてはお似合いなんだ。だから、余計に脅威たりうるのさ』
 バグダッシュにとって、その言葉はある程度の説得力を持っていた。恋愛感情という奴が絡むと、上手くいくものが上手くいかなくなるものだと、考えていたからである。特に長年情報部に籍を置いたバグダッシュにとって、恋愛など本気でできたものではない。危険なのである。身内を持つ、自分以外に大切な人間を作る、ということはどれだけ危険であるのかを、彼は経験で知っていた。
 だからこそ、バグダッシュはフロルとイヴリン・ドールトンにも監視を付けていた。フロルに断らず、である。だが、きっとフロルはその監視に気付いているだろう。その程度がわからなければ、とてもじゃないが情報部のセクションを率いることはできない。

「そもそもあのチケットはトリューニヒトからおまえさんに渡されたチケットだろう。使わなくてよかったのか。なかなか美味そうなものを食ってるぞ」
『俺はあまり外食をしないんだ。ある程度なら、
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