綻びを残して
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綻びを残して
超光速通信を終えたカーテローゼ・フォン・クロイツェルは、真っ暗になった画面を見て、一つ溜息をついた。久しぶりに自分の同居人と、話をしたのだ。口をついて出ようとする言葉ばかりで、まともに言いたいことも話せなかったが、とりあえずフロル・リシャールと、イヴリン・ドールトンの生存を確認できたことだけでも、満足だった。
カリンの年の離れた友人であるイヴリンが多少の怪我を負ったと聞いた時には、心胆寒からしめるものがあったのだが、無事帰国の途に着いたと聞いて、胸を撫で下ろしていた。フロルも、苦しい戦いを切り抜けたようだった。
カリンとって、フロルという男は何者にも代えられない家族であって、と同時に宇宙で一番頼りになる男だった。心落ち着かせて待つことは難しかったが、帰ってくるという確信だけは、不思議とカリンの中にはあったのである。
だから、この超光速通信は確信の確認作業、と言った具合なのだが、やはり姿を見て、声を聞くと安心したカリンである。
カリンは超光速通信室を出た。暗闇から待合室の明るい光の下に出て、カリンは眩しそうに目を細めたが、近寄ってくる姿を認めて、一つ頭を下げた。
「キャゼルヌさん、ありがとうございました。ちゃんと、フロルさんと話せました」
ここはデンホフ基地にあった軍用超光速通信施設であった。ちょうど帰還部隊の手続きのためにデンホフに来ていたキャゼルヌが、気を利かせてカリンにその機会を作ってやったのだ。この施設は平常時であれば、軍人の家族に無料で開放されているのだが、多くの面倒な手続きが必要な代物であった。専用回線を用いるため、高性能は折り紙付きであったのだが、それをキャゼルヌがすべて用意してくれたのである。
キャゼルヌは柔和な笑みを浮かべながら(フロルやヤンに言わせると悪魔の微笑みとでも表現するだろう)、腰を屈めた。
「そうか、よかったな。あいつは元気そうだったか」
キャゼルヌはまるで愛娘のように頭を撫でた。
「ちょっと、疲れてるみたいでしたけど、しゃんとしてましたよ」
一端のレディを自認しているカリンは口をアヒル口にしながら答えた。
「まぁあいつは今回も大変だったらしいからなぁ。要領が良いように見せかけて、どうしてか苦労するんだよな、あいつは」
「あと、イヴリンさんもハイネセンに着く頃には全快してるって言ってました」
「そうか」
イヴリンの名を出すと、キャゼルヌは苦い顔をした。彼は自分の部下として使っていたイヴリンを、補給艦隊付にして、グランド・カナル事件で死なせかけたことがあったからである。直接の責任があるわけではなかったが、彼はそれを感じていたようだった。
「イヴリンさんからの言づてです。『気にしないで下さい。私は今
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