綻びを残して
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たこととは思うが、君の行動は大局から見て適切な判断であったと私は考えている」
フロルはやむを得ず、立ち止まった。
「ありがとう……ございます」
「私は君に期待しているのだよ、フロル新少将。20代での少将昇進は同盟史上最速だそうだ。そのように優秀な人間が私の国防委員長在職中に現れたことは非常に喜ばしいことだと思うわけだが、フロルくん。わかるかね」
トリューニヒトは右手を差し出した。その意味を、フロルは読み違わない。フロルは、トリューニヒトと自分を見ている人間の多さと、走り寄ってくるジャーナリストの姿を視界の端に認めた。
差し出された手は、握らざるを得なかった。
フロルは理解している。
今回の会戦で、フロルがいかに働いたとはいえ、本来ならば少将昇進に適うほどの功績ではなかっただろう、ということを。実際問題、第4艦隊の副司令官になるとしても、前任のフィッシャー准将は准将位で任官していたため、慌ててで少将になる必要はなかったのだ。
さらに、幻の独断専行。
ビュコックは、あの独断専行を許してはいないだろう。
その行動がもたらしかねなかった窮地を見通し、フロルの行動を厳しく評価していたはずである。
ならば、フロルは昇進できるはずがない。
だが、現実は昇進した。
??トリューニヒトの差し金。
「これも、国《・》防《・》委《・》員《・》長《・》閣下のおかげ、ということですか」
フロルはトリューニヒトの右手を握った。
一瞬だけ顔を寄せ、周りの誰にも聞こえぬ声量で、トリューニヒトに話しかける。
トリューニヒトは小さく、その口角を上げた。
「民主主義国家の、正当な評価だよ、フロルくん」
フロルは、ともすれば引きつりかねない思いで、カメラに笑みを向けた。
フラッシュが走る。
右手に感じる湿った肌が、気持ち悪かった。
トリューニヒトが左手で、フロルの肩を抱いた。
フロルを、より多くのフラッシュが襲った。
この二人を多くの人間が見ている。
そして群衆の中には、アレクサンドル・ビュコック提督の姿も、あったのだ。
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