綻びを残して
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い。
更に言うと、フロルとビュコックはここ数日まともに顔を合わしていなかった。一つに、フロルが顔を合わせにくかったという感情もあるが、撤退に関する事後処理によってまともに時間を作れなかったということもある。画面越しに通信をしても、終始事務のことしか、お互いは口にしていなかった。
フロルに釣られたように、夫人もまたガラス越しに空を見上げた。
「あの人は??」
夫人は言葉を続けた。フロルは、夫人を見た。
「??頑固なところがあって、若い人には難しい人なの。悪い人ではないんだけど、苦労もあると思うわ。フロルさんは、今まで私が見てきた部下の方の中でも、一番あの人のことを理解してくれているように思えるの。どうかしら?」
彼女は、その人の良さそうな笑みで、フロルに一寸の疑いも不信も抱いていないかのように、話しかけた。
「恐縮です」
フロルは、ただ、頭を下げた。
それしか、今の彼には出来なかった。
「あの人を、よろしく頼みます、フロルさん」
頭の上からかけられたその声は、フロルの心を締め付けた。
つい先日、裏切った事実が、彼に重くのし掛かっている。
***
フロルの独断専行は、針路転換という形でしか、書類上は残っていない。それもまた、作戦本部によって明示された作戦行動を達成するために、別働隊の指揮官に認められる範囲の独立行動として処理されていた。
だが、あの時の、一刻一秒を争うような攻防戦の中で、あの針路の変更が、いったいどれだけの意味を持つか、有能な指揮官であれば理解できるものだったろう。
式が終わり、会場を出る際にも、フロルは自身に向けられる好奇の視線を自覚していた。
??29歳の新少将。
??第4艦隊副司令官。
??新進気鋭のエリート将校。
??パストーレの懐刀。
??シトレ派のリーダー的存在。
??得体の知れない情報部との繋がり。
??親ビュコックのヤン一派とも親しい。
??命令無視の独断専行未遂……。
フロルは、会場を出たホールにいた白髪を見て、それに話しかけようとした。
だが、それを遮った人間がいた。
同盟最大の悪人。
フロルにとって、厄介極まりない煽動政治家。
ヨブ・トリューニヒト。
「やぁ、フロルくん」
その顔にはにこやかな、一見すれば人当たりのよい笑顔が浮かんでいた。
だがそれは、フロルにとって嫌悪感を催すものでしかなかった。
「トリューニヒト国防委員長……」
「今回はご苦労だったね」
フロルは言葉を出さず、鋭く敬礼だけをした。トリューニヒトの横をすり抜けようとしたが、トリューニヒトはそれを妨げるように体をずらした。フロルは横を抜けられない。
「君もなかなか苦労し
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