綻びを残して
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い、フロルさん」
少し経って顔を離したカリンは、目を赤くしていたが、とても綺麗な笑顔でフロルにそう言った。この笑顔を見ると、フロルは生きて帰ってきたことを、神に感謝したい気持ちになるのであった。
保護者の贔屓目を差し引いても、天使の笑顔だろう。
「また、背が伸びたな」
「うん、フロルさんが私を放っておく内にどんどん伸びてるよ」
フロルは優しくその頭に手を置いた。
「俺がいなくても、カリンは大丈夫。しっかりした子だからね」
カリンはちょっと拗ねたような顔をしたが、フロルが頭を撫でるとそれもまた笑顔に転じた。
「フロル先輩、お疲れ様です」
ヤンがこちらに近寄ってきて、そう言った。特に困ってるわけでもないだろうに、頭をかいている。
「フロルさん、お帰りなさい」
「ただいま、ユリアン」
ユリアンもまた、フロルが会わないうちに身長が伸び、その美少年ぶりにも磨きがかかっているようだった。
「ヤン、カリンを連れてきてくれてありがとうな」
「いえ、カリンちゃんの頼みですから、断れませんよ。本当はキャゼルヌ先輩が連れてくる予定だったんですが」
「まぁ先輩も忙しいだろう。今度の戦いが終わったら昇進だろうから」
「ええ、少将に昇進するそうです」
フロルは頷いた。それだけのことを、キャゼルヌはやっていたはずである。過労で倒れるほど、セレブレッゼ退役中将の抜けた穴を埋めるべく働いていたのだ。
ヤンはその時、何かを言いたそうに口を開きかけたが、それを続けることはなかった。恐らく、フロルの独断専行について、多少のことを聞き及んでいるのだろう。だが、それをユリアンやカリンの前で口にすることに、抵抗を覚えたに違いなかった。
フロルは後輩《ヤン》の不器用な気遣いに感謝しつつ、カリンと手を繋いで空港に入っていった。
「あら、カリンちゃんじゃないの」
空港内で、カリンに声をかけた老婦人がいた。一同がそちらに目をすると、それはベンチに座ったビュコック夫人であった。
「これは、ビュコック夫人、ご無沙汰をしております」
フロルはカリンを連れて、彼女に近づき、頭を下げた。カリンを可愛がってもらっているこの老婦人には、感謝しても感謝しきれないほどの気持ちをフロルは抱いていたからである。
「フロルさん、無事のお帰り、お喜び申し上げますわ」
「ありがとうございます。ご主人の指揮のおかげです」
そうフロルが言うと、夫人は柔らかな微笑みを浮かべた。
「あの人はまだ降りて来ないのね」
「もう少しで、降りてくると思いますが」
フロルは澄み切った青空の上に目をやった。ビュコックは今頃、第5艦隊の事後処理を終え、地上《ハイネセン》に降りてくるところだろう。フロルは第4艦隊の連絡艇で降りてきたため、ビュコックと同じ便ではな
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