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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
綻びを残して
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を過ぎった言葉だった。
 
 帝国からの自由と、民主主義を守るために始まったはずの戦いは、その期間に反比例して当初の目的を見失い、今では大義のために戦っているのか、戦うために大義があるのかさえ見失っている。そしてその大義ですら、いったいなんのためのものなのかさえ、誰も考えることを忘れている。
 
 トリューニヒトのような男が議員を務め、今この場で挨拶をしていることが、その証左だった。
 そして、その煽動政治家(トリューニヒト)からの美辞麗句を身に受けているフロル自身もまた、愚かな道化に違いないのだ。
 
 この戦勝祝賀会は、第4、第5,第10艦隊が首都星ハイネセンに帰還した、3日後に行われていた。同じ集会場で昨日、第3次ティアマト会戦戦没者慰霊祭が開催されたという事実は、もはや悪い冗談と言わざるを得ない。昨日は、もっともらしい暗い表情で戦没者を悼んでいたはずの人々が、今は貼り付けたような笑顔でトリューニヒトの演説を聴いているのである。会場を埋め付くさんとする人々の顔は、もはや何かの宗教のような様相だった。
 トリューニヒトはまた長々と演説をしていたが、その内容はフロルには聞かなくともわかっていた。今回の戦いにおいて、同盟軍人がいかに勇猛果敢に帝国軍に立ち向かい、その雑兵を打ち破ったか、いかに崇高な愛国心によってその身命を賭したのか、それを余分に過剰を振りかけて、更に度を超した修飾によって誇張しているのだ。

 聞くだけで、吐き気がした。

 事実、ステージの前方2列目に座っているヤン・ウェンリー准将の表情が加速度的に悪くなったいる。そのわかりやすすぎる姿が、今のフロルにとってはかえって清涼剤だった。フロル自身は上辺を取り繕うのが得意であるから、神妙な顔でステージに立っているのだ。

 今回、フロルは少将へと昇進することとなった。
 MIA(作戦行動中行方不明)となったフィッシャー准将に替わり、第4艦隊の副司令官に内定している。
 負傷したパストーレは、4ヵ月で全快予定だった。

 フロルによる独断専行も、未遂であるということを理由になかったことにされたようだった。
 なかったことにしたのはもちろん、トリューニヒトである。


***
 

 帰国したフロルを出迎えたのは、ハイネセン国際空港にまでやってきたヤンとユリアン、そしてカリンだった。
 地上連絡艇から地上にタラップを降りたフロルに、誰よりも早く駆け寄ったのは無論、カリンである。
 一言の挨拶もなく、二人は抱き合った。
 子ども特有の高い体温、抱きしめると折れてしまいそうな華奢な体、そして耳元で聞こえる押し殺したような泣き声、そして細く柔らかい紅色がかった髪が、すべてがカリンだった。

「ただいま、カリン」
「……ぐすっ……おかえりなさ
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