綻びを残して
[6/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
将は、先の会戦において、第5艦隊主席幕僚として、作戦立案において多くの功績が認められた。また、激しい戦闘の中、敵の攻撃によって混乱した第4艦隊の再編成を行い、帝国軍の左翼に睨みを利かせ、同盟軍派遣艦隊の殿《しんがり》を務めた。この功績は賞賛に値する。よってこの功績を認め??」
地上55階、地下80階、自由惑星同盟軍統合作戦本部のビルの地下、四層のフロアをぶち抜いた集会場にフロル・リシャールはいた。
天井の、手の届かぬ高みから照らされるスポットライトが、フロルは眩しかった。自分が来ている白い礼式用の軍服と、階級章が目新しく光っている。横目に見れば、第3次ティアマト会戦に参加した高級将官が鹿爪らしい顔で立ち並んでいた。トリューニヒトを挟んだ反対側には、統合作戦本部長のシドニー・シドレ元帥、宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥の姿も見える。
同盟の主要人物が揃っているようなものだった。
もしフロルが帝国の工作班であれば、この機会を逃さないだろう。同盟軍の首脳部が一堂に会したこの場で爆弾テロを起こせば、^軍部中枢を決定的な混乱に陥れることが可能だからである。だが、むろん徹底的なセキュリティ・チェックによって、爆発物や化学薬品の類いは排除されている。
??だが。
この発想は有効だろうと、フロルは考えていた。
「テロで流れは変えられない。でも、流れを止める事はできる」
と言ったのは、小説の中のヤン・ウェンリーだった。その通りである。実際、ヤンがあのフィクションの世界で暗殺され、同盟と帝国の講和が実を結ばなかったことも、のちにユリアンによって結果的には講和が成立している。つまり、歴史の流れは、変わらなかったのだ。
だが、ヤン亡き後、ユリアンがラインハルトに辿り着くために、多くの人間が血を流した。メルカッツ、シェーンコップ……。
彼らの運命は、彼らの人生は、ヤンの暗殺によって大きく変わったのだ。
だからこそ、フロルは考えている。
暗殺は有効な手段である、と。
フロルが思考を深めている間も、第3次ティアマト会戦の戦《・》勝《・》祝賀会が執り行われていく。
フロルは、ふと視線を上げ目に入った垂れ幕の<勝利>の文字に対して、誰にもわからないほど小さな苦笑をこぼした。
あの戦いを、まるで同盟の一方的な勝利のように宣伝する同盟軍の現状がその苦笑の訳だった。
国民に対して正確な戦況を教えない軍部は、果たして民主主義国家の軍隊のあるべき姿なのだろうか。これでは、20世紀の日本軍と変わらない。現実から目を背け、自らは英雄の進むべき道を、栄光にあふれる正義の道を歩んでいるという妄想に、国家レベルでのめり込んでいるのだ。
なんと愚かな、ことだろう。
衆愚政治、という言葉は、フロルがこの世界に転生してから何度も頭
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ