綻びを残して
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書である。
今回の第3次ティアマト会戦は同盟軍にとって、不味い戦いだった。
それが、軍中枢にいる者たちの共通認識である。
それでも、報道では同盟軍の圧倒的勝利を叫んでいるあたり、末期的だと言えるだろう。グリーンヒルは椅子を回して窓からハイネセンの街に目をやった。
今回の会戦では、第4艦隊の半数が壊滅、第5艦隊も30%近い被害を受け、中破、小破判定の艦艇を含めれば更に被害は甚大である。唯一勝利らしい勝利を手に入れた第10艦隊にしても、20%近くの艦艇と人員を消耗した。
また第4艦隊は副司令官を失い、司令官であるラウロ・パストーレは重傷を負い、第5艦隊から派遣されたフロル・リシャール准将が代理に指揮をとっているという。
明日にはハイネセンに到着するであろう派遣艦隊はまさに、満身創痍というべき有様であった。
そして、フロル・リシャール准将である。
ラオ少佐は、かつてフロル・リシャールを危険視したグリーンヒルが秘密裏に監視を命じた諜報畑の人間である。前の報告では、ラオがグリーンヒルの監視員であることが、フロルにばれたと知らせてきたので、グリーンヒルは随分と肝を冷やしたものだが、フロルは結局なんの反応も示さなかった。
それどころか、都合がよいとばかりに自らの諜報にラオを使っていたそうだ。
グリーンヒルも、いい加減フロルに対する注意度を下げようかと思案するほどであったのだが、とうとうやらかしたのである。
<??リシャール准将は明確な意思でもって、作戦本部の命令に抗い、私的な艦隊の運用を試みた。直後に発令された撤退命令には従ったが、その抗命の意思は、艦隊の無意味な転針によって明らかである。未遂とは言え??>
グリーンヒル大将は不思議であった。彼が知るフロル・リシャールという男は、膨大な野心があるでもなく、狭窄した固定観念に囚われることもなく、惨めな支配欲があるわけでもない、至って健常で有能な民主主義の軍人であった。軍事行動の理をよく理解し、無謀な作戦でない限り従順にそれを遂行する、そういう信頼に足る軍人であったはずなのだ。
<??リシャール准将は、帝国軍艦隊司令官、ラインハルト・フォン・ミューゼル中将に対する敵意著しく、これを排除せんとする感情の暴走が見られた。また准将はかの敵将を、ラインハルト・<<フォン・ローエングラム>>と呼称した。その意図は不明であるが??>
グリーンヒルは軍事情報サーバで<ローエングラム>の名を検索した。
<ローエングラム伯爵家。
ルドルフ大帝以来の名門閥族。軍事貴族の名流。745年、当時の当主、ヘルムート・フォン・ローエングラムが40代の若さで、第2次ティアマト会戦で戦死。断絶の後は伯爵領が帝国直轄領に組み込まれ、現在に至る>
グリーンヒル
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