綻びを残して
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幸せですから』……フロルさん、どうやら戦場でプロポーズしたみたいですよ?」
カリンはキャゼルヌの顔色を聡く読み取ると、とっておきの情報を教えた。教えられたキャゼルヌは、一瞬ぽかんと呆けたあと、にやりと頬を歪めた。
「俺もフロルの奴に早く結婚するように言ってたんだが、とうとう決心したか」
「はい、そう言ってました。正式な婚約は、帰ってきてからするみたいですけど」
キャゼルヌは満足そうに大きく頷くと、立ち上がった。
「じゃあ帰ろうか」
「はい、アンナお婆さんが今日はタルトの作り方を教えてくださるんです」
「それは美味しそうだなぁ」
「一緒にどうですか? アフタヌーンティーにはちょうどいい時間ですよ」
「フロルの実家にか? 遠慮しとくよ」
キャゼルヌは施設の警備兵に敬礼を送りながらそう言った。隣を見ると、カリンもその小さな手で敬礼をしている。微笑ましい背伸びだった。
だがそんなものを見ながらも、キャゼルヌは自身の耳に入ってきていた情報について考えていた。薔薇の騎士連隊が第5艦隊から出されるという噂、上役に収まっていたフロルと彼らの不和騒動、そして何より、フロルの抗命未遂騒ぎ……。
どれもフロルにしては、人と上手くやるのが得意なフロルにしては珍しい話だった。
薔薇の騎士連隊はそれこそ色々な人間と小競り合いを続けてきた連中だが、そんな連中と上手くやるのがフロルという男だったはずである。そのフロルが、彼らを切り捨てようとする動きを見せたというのだから、キャゼルヌは納得できなかった。
フロルは陸戦部隊としての薔薇の騎士連隊の働きを大きく評価しており、その口から絶賛の言葉が出てくるのをキャゼルヌは何度も聞いていたのである。
より重大という点においては、突破され半壊した第4艦隊を再編成したフロルが、司令本部の命令を無視しかけたという話である。フロルと司令本部、第5艦隊司令官ビュコック中将との仲は良好であったはず。
そもそもフロルは一時の感情で判断を見失うような軽率な男ではなかったはずだ。士官学校時代において、フロルは常に明るく快活な振る舞いながら、内心では恐ろしく冷静沈着に動いていたことを、キャゼルヌは見抜いていた。それがフロルの本質に近いとキャゼルヌは思っていたのだ。
だからこそ、まるで復讐に狂わされたように敵艦隊に突撃をかけようとしたと聞いて、彼は理解できなかったのだ。
??いったい、どういうことなのだろう。
キャゼルヌは、それを考えていた。
***
統合作戦本部の自室にいたドワイト・グリーンヒル大将は、手元に届いた部下からの報告書を読み終えた。それは公式な資料ではなく、あくまで彼子飼いのラオ少佐からの報告
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