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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第3次ティアマト会戦(6)
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の隙を作り出すために、敵本隊の側背を突くことです。敵ミューゼル艦隊が我が艦隊の側面から迫っているとはいえ、当初の作戦目標を達成することに対する障害とはなりえません」
「だが損害は生じる。さきほど惨敗を喫した敵に、横っ腹を見せつけたままでいいと言うのか。我が艦隊の前に出てくるというのなら、それを叩くのみだ」
「だから、それがどうしたというのです?」
 フロルはラオの顔を見ていなかったが、それでも能面のように表情の欠落した顔であろうことはわかっていた。
「復讐戦など無《・》意《・》味《・》であることはあなたにも分かってるでしょう、リシャール准将」
 
 フロルは答えない。
「すぐに艦隊を戻すのです。そうすればビュコック提督の心証も悪くせず、グリーンヒル提督に対する言い訳もしなくて済む」
「グリーンヒル提督の言いつけか、これは」
 フロルは前を向いたまま言う。
「私はあなたの部下である前に、グリーンヒル提督の部下なんでね」
 ラオは肩を竦めた。

「理由など、一つだよ、ラオ少佐。俺はあのラインハルトという男を看過できない。俺を邪魔するというのなら、しかも補給も満足に終えていない状態で、士気高く突き進む我が艦隊に復讐戦の機会を与えてくれるというのなら、叩きのめそうというだけだ」
「かの艦隊は補給こそ終えていませんが、艦数は我が方より4000隻近く多いのです」
「何も全滅させる必要はない。我が艦隊もかの艦隊と同じことをすればいいだけだ。我が艦隊の攻撃目標はただ一つ、敵の総旗艦一隻のみ」
「愚かな」ラオの声には呆れすら混じり始めていた。「敵艦隊がはいそうですかと、旗艦に攻撃を許すと思いますか? 現実問題、我が艦隊があの艦隊の旗艦を潰すには、かの艦隊全体を壊滅させなければならないのです。いいですか、あなたのやっていることは、戦略的に何の意味もないのです。あんな艦隊など無視して、ミュッケンベルガー艦隊に突撃するべきだ! 作戦を失敗させるつもりですか!?」

《中央、第5艦隊が敵中央部隊と交戦を開始しました。我が艦隊と敵遊撃艦隊との交戦開始予想時刻まで、残り300秒!》
 フロルには艦内放送で流されているはずの声が、遠くに聞こえた。

「それがどうしたって言うんだ!」
 フロルは振り返って吠えた。その声で幾人かがこちらに視線をやる。
 ラオは、顔色一つ変えずにそれを見ていた。
 フロルの、冷静沈着な皮の下を走る激情を見ていた。
「……リシャール准将、あなたは何を焦っているのです」

 フロルは口にすることなど適わなかった。
 例え、どんな犠牲を払ってでも、差し違えてでも、あのラインハルト・フォン・ローエングラムを殺さなければならないと、彼は信じていたのだ。
 あの男は加速度的に地位を上げ、力をつけ、同盟を滅びの道へと誘
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