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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第3次ティアマト会戦(6)
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通りじゃな。ただ、ミューゼル艦隊とやらにやられた被害が、予想を大きく上回っておるわけじゃが」
 ビュコックは疲れたような仕草で、自らの顎を触った。老境に入った身には、長丁場の戦場は辛い。だが、その目はまったく死んでいない。鋭く、前方を見ていた。
「リシャール准将が作り出した好機です。呼応して、一矢を」
「報わんとならんじゃろう。死んでいった者たちのためにも」
 ビュコックは座っていた司令官席から立ち上がった。そして声を上げるため、息を吸い込んだ時、とある情報士官が驚きの声を上げた。

「リシャール准将の部隊が針路を変更しました!」

「どういうことだッ!」
 ファイフェル少佐がビュコックよりも先に声を上げた。駆け寄って、情報士官のコンピュータを覗き込む。ビュコックは視線を強くして、言葉を飲み込んでいた。艦橋前方の巨大スクリーンを凝視している。リシャール部隊の針路予想線が書き換わる。

 リシャール部隊は、ミューゼル艦隊に直進していた。

「第5艦隊に告ぐ。装甲の厚い艦を前に、防御陣形を整えよ」
 ビュコックは指揮官席の艦隊放送のスイッチを切った。
 ファイフェル少佐が振り返る。
「提督……」
「フロルが策をしくじるとはな……いや、違うかあれは……」
 ビュコックは口を閉ざした。
 どちらにしろ、もう我が艦隊にできることは??
「防御を固めるしかあるまいよ」



***



 フロルは、さきほどまで突撃を叫んでいた口を閉ざし、目の前のスクリーンで第4艦隊の復讐を受けているミューゼル艦隊を見ていた。フロルのすぐ後ろには、副官として艦橋に控えていたラオ少佐がぴったりと立っている。
 フロルも、ラオも無言だった。
 レーダー士官や、各部署から届く怒号が艦橋を満たし、二人の沈黙に誰も気づいていない。

「どういうつもりだ、ラオ少佐」
 フロルは前を向いたまま、沈黙を破ってラオに問いかけた。フロルは振り返ることができない。
 その声には静かな怒りが込められていた。

 フロルの背中には、ラオのブラスターが突きつけられていた。

「上官に対して銃口を向けることは、上官反抗罪以外の何物でもないぞ」
「誰も気づきません」
 ラオは平坦な声で言った。
「艦橋には監視カメラがある」
「既にダミー映像が走ってます」

 言うと、ラオはもう一度ブラスタをフロルに押しつけた。

「何が目的だ」
「それは私の言葉です。リシャール准将」
 ラオは視線を前方のスクリーンに据えたまま、底冷えのするような声で言った。一切の感情を廃した声だった。

「??あなたは何をしているんですか?」

 フロルは答えない。
「我々、第5艦隊所属戦艦ヒスパニオラが第4艦隊に派遣された目的は、同盟軍撤退
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